かわいい名前に騙されてはいけない猛毒ガニ スベスベマンジュウガニ

砂浜にいる茶色いスベスベマンジュウガニ 水中の生き物
Photograph by Hugo Innes

スベスベマンジュウガニとは?

岩礁にいる真っ赤なスベスベマンジュウガニ

甲羅の幅が約5cm、高さが約3.5cmくらいとサワガニより一回り大きいくらいの小型のカニです。名前の通り甲羅が半球状に盛り上がっていて表面が滑らかという特徴があります。
体色は赤褐色紫褐色灰色の斑紋が甲羅に広がっているという特徴と、ハサミの先が黒くなっている特徴があるので見分けるのはそんなに難しくありません。
雑食性で海藻や貝類、ゴカイなどを食べています。ちなみに似たような名前でスベスベオウギガニというカニもいますが、毒を持っている個体は確認されていません。

分布と生息地

インド洋から西太平洋に幅広く分布していて、日本でも千葉県~沖縄県にかけて太平洋岸の岩礁やサンゴ礁に生息しています。
深いところだと水深100m程度にも生息していますが、岩礁や磯遊びができるような浅瀬にも潜んでいるので磯遊びをしていると見かけることもあるくらい身近にいるカニです。
夜行性で昼間はじっとしていることが多く、また、あまり素早く動くことができないため磯遊びをしているときに簡単に捕まえることができます。

スベスベマンジュウガニの毒性

茶色いスベスベマンジュウガニの拡大写真

引用:https://www.picture-worl.org/arthropode-nouvelle-caledonie-atergatis-floridus-linnaeus-1767.html

スベスベマンジュウガニは体内に毒を持っていますが、ヘビやサソリのように毒を使った攻撃をしてくるわけではありません。

ふぐなどと同じように体内に猛毒を持っているので、食べなければ中毒を起こすことはないので磯遊びで捕まえたとしてもそこまで危険ではありません。一方でもしも食べてしまうと最悪の場合死に至る危険性もある猛毒が含まれています。 それではどのような毒をもっているの見てみましょう。

毒の成分

テトロドトキシンの構造

テトロドトキシンの構造

スベスベマンジュウガニの毒はフグ毒として有名な「テトロドトキシン(TTX)」や麻痺性貝毒(PSP)である「ゴニオトキシン」「サキシトキシン」「ネオサキシトキシン」が確認されています。

テトロドトキシンはフグ毒とも言われる猛毒で青酸カリの850倍ほどの毒性があります。また、サキシトキシンはテトロドトキシンと同程度の毒性がある猛毒です。

生息地や個体によって持っている毒の主成分や量が大きく異なっているため、体内で毒をつくっているのではなく、毒を持った貝などのエサから毒を取り込んでいると考えられています。

神奈川の三浦半島ではテトロドトキシン(フグ毒)が主成分で、沖縄ではサキシトキシンなどが主成分の個体とテトロドトキシンが主成分の個体の両方がいます。徳島では両方の毒を合わせ持っている個体もいるようです。

いずれの毒も熱に強いため加熱料理したとしても無毒化することはできません。

毒のある部位

ハサミの大きいカニのアイコン

特にハサミに毒が多く含まれている

毒は殻と脚やハサミの筋肉(カニ身)に含まれていますが、特にハサミの付け根の太い部分に毒がたくさん集まっています。

カニは身の危険を感じるとトカゲのしっぽと同じようにハサミを取っておとりにして逃げますが、猛毒入りのおとりを使うことで生存率をあげているのではないかと考えられています。対して調査されたスベスベマンジュウガニの胴体の身には毒が入っていないことが確認されているのでこの考えの後押しになっています。

とはいえ、胴体の身に毒を持っている個体もいるかもしれないため絶対に食べないようにしましょう。

食べた時の中毒症状

スベスベマンジュウガニを食べてしまうと段階的に症状が進んでいきます。

第1段階

20分後~数時間後に口やくちびる、舌先、指先などが痺れてきます。その他頭痛や腹痛、めまいなどが発生します。

第2段階

麻痺が徐々に広がってきて思うように体が動かせなくなってきます。その他言語障害や血圧低下、呼吸困難などの症状が現れます。

第3段階

全身に痺れが広がり体が全く動かせなくなります。周りから見ると意識を失っているように見えますが実は意識ははっきりしているそうです。血圧低下と呼吸困難がさらに進行します。

第4段階

意識が完全になくなります。また、最悪の場合、呼吸が停止し死に至ります。 スベスベマンジュウガニの持っている毒は地域性がありますが、いずれも麻痺性貝毒なので同じような中毒症状が現れます。

麻痺がおこるメカニズム

フグ毒や麻痺性貝毒は脳からの指令を妨害する働きがあります。例えば「指先を曲げなさい」という指令が脳から出されて初めて指先が曲がりますが、この指令が妨害されると痺れとなってうまく指を動かせなくなります。

この毒の恐ろしいところは、症状が重い場合には無意識に行っている「呼吸しなさい」という脳からの指令も妨害してしまうという点にあります。

致死量

スベスベマンジュウガニに含まれる毒の量は個体差が大きいですが、多い個体だとカニ身1グラムあたり1,000MU(マウスユニット)以上の毒が含まれている個体が確認されています。

スベスベマンジュウガニの小ささを考慮しても1匹食べてしまうだけで数千~数万MUを摂取する可能性があります。 ヒトの致死量は、体重60kgの人で約3,000~20,000MU(マウスユニット)とされているため、1匹食べてしまうだけで死に至る可能性があります。

ちなみに成分単体としては、テトロドトキシンもサキシトキシンも1~2mg程度を口から摂取してしまうと命に関わると考えられています。またLD50で示すと以下の通りです。

サキシトキシン
  • マウス経口 LD50 0.01 mg/kg
テトロドトキシン
  • マウス経口 LD50 0.01 mg/kg
  • マウス皮下 LD50 0.0085 mg/kg
用語解説
MU(マウスユニット):Mouse Unit
体重20グラムのマウスに腹腔内投与(お腹に直接注射器で投与する方法)を行い、麻痺性貝毒は15分、フグ毒は30分、下痢性貝毒は24時間で死亡する物質(成分)の量を示しています。
用語解説
LD50(50%致死量、半致死量):Lethal Dose 50
ある一定の条件で動物にある物質(成分)を投与した場合に、動物の半数を死亡させる物質(成分)の量を示しています。LD50を使うことでその物質(成分)の毒性を比較することができます。一般的にはLD50 1500mg/kg以上の物質(成分)が安全とみなされています。

中毒症状が出てしまったら?

診察票に記載している医師

現在スベスベマンジュウガニの持っている主な毒(テトロドトキシン、サキシトキシン)に対する有効な解毒法や治療方法は確立されていないため、体内で無毒化されて体の外に排出されるまでひたすら待つしかありません。

死に至る理由は「呼吸しなさい」という脳からの指令が毒により遮られてしまい呼吸が止まってしまうことが原因のため、呼吸が止まった瞬間から毒が排出されるまで人工呼吸し続ければ理論上は助かります。ただ、止まった瞬間から対応すること自体非常に難しくあまり現実的ではないのが現状です。

症状が出たと思ったらすぐに対応処置をしてもらうために病院に行きましょう。

まとめ

スベスベマンジュウガニはかわいい名前をしていますが、1匹でも食べてしまうと最悪の場合死に至る猛毒を体内に蓄えている猛毒ガニです。

日本にも千葉県~沖縄県の太平洋岸に生息しており、磯遊びなどをしていると比較的簡単に見つけることができるのでむやみに取ったカニを食べないようにしましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました