ヨコヅナサシガメとは?

ヨコヅナサシガメ(学名: Agriosphodrus dohrni)は、カメムシ目サシガメ科に属する大型の昆虫で、体長は20mm前後にもなり頑丈な外骨格を持っています。

羽化直後のヨコヅナサシガメ
体色は黒色で、足の付け根や腹部が赤くなっていて腹部の縁にある白と黒の縞模様があり、大相撲の横綱(化粧まわし)に似ていることからこの和名がつけられました。羽化直後の外骨格が硬くなる前は全身が鮮やかな赤色となっています。
ヨコヅナサシガメは肉食性であり、毛虫などの他の昆虫を捕食して生活しています。春から夏の活動期は樹上の葉の上や梢(樹木の先の部分)にいます。
動きは遅いですが、獲物を捕らえるために、口吻(こうふん)と呼ばれる針のような器官を使って獲物の体内に麻痺させる成分を含む消化液を注入します。

Photograph by Yasunori Koide
獲物を捕食する様子
鋭い口吻の威力もさることながら、これらの毒性がある成分は非常に強力で刺された獲物は逃げることができずに徐々に体内組織を液化され食べられてしまいます。
ヨコヅナサシガメは積極的に人を襲うようなことはありませんが、危険を感じたり、捕まえられたりするとこの口吻を刺すことで防御行動をとるため、人間が刺されると強い痛みや炎症を引き起こします。
6月頃に成虫が産卵し、8月頃に羽化すると幼虫は密集してそのまま冬を越し、その後春に脱皮して成虫となるというライフサイクルを送ります。
不思議なことに羽化中の若い幼虫は共食いすることが観察されていますが、羽化完了後の幼虫には共食いが見られず、その理由は判明していません。
原産地・分布・生息環境

ヨコヅナサシガメは、もともと日本には生息していなかった外来種です。
原産地は中国南部から東南アジアにかけての地域で、中国、台湾、ミャンマー、インドなどに自然分布しています。
日本には1930年頃に九州に侵入したと記録されており、その後ゆっくりと分布を広げて1990年代に関東にも浸入したとされています。現在では東北、北海道、沖縄、その他一部の地域を除き本州、四国、九州と広範囲に定着しています。
日本に持ち込まれた具体的な経緯は明確には特定されていませんが、貨物に紛れ込むなどして意図せず侵入した可能性が高いと推測されています。
日本の温暖な気候に適応し、サクラ、エノキ、ケヤキ、クワ、ヤナギ、クスなどの樹上で生活しているため、都市部の公園などでも見られるため注意が必要です。
ヨコヅナサシガメの毒

Photograph by りなべる
ヨコヅナサシガメは、彼らの口吻から毒性のある消化液を注入します。これは捕食や防御のために用いられるものであり、人間が刺された場合も同様にこの毒液が注入されます。
サシガメ科の毒液は主にタンパク質分解酵素で構成されていますが、本種における毒の作用としては、主に「獲物を麻痺させる」「内部組織を溶かす」という作用を持っています。
この毒は、あくまで昆虫を捕食するために進化してきたものであり、人間のような大型の動物を殺傷するほどの毒性はありませんが、注入されるとその酵素作用と生理活性物質によって、強い痛みや炎症反応が引き起こされます。
ヨコヅナサシガメは、意図的に人間を刺すことはありませんが、不用意に触れたり、捕まえようとしたりすると、身を守るために口吻を突き刺してきます。
刺された時の症状

ヨコヅナサシガメに人間が刺された場合の症状は、主に局所的以下の症状が特徴です。
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激しい痛み:
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刺された瞬間から鋭い痛みが生じます。この痛みはハチに刺された時や、注射を打たれた時の痛みに例えられることがあります。
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腫れと発赤:
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刺された部位は数時間から数日かけて赤く腫れ上がります。腫れの範囲は、刺された部位の周囲に広がることもあります。
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かゆみ:
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腫れとともに、強いかゆみを伴うことがあります。また、痛みが引いた後に数時間から数日おいて強いかゆみが引き起こされることもあります。
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水疱形成(稀):
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感受性の高い人や、大量の毒液が注入された場合、刺された部位に水疱が形成されることがあります。
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アナフィラキシーショック(可能性として):
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過去に昆虫毒に対するアレルギー反応を起こしたことがある人や、体質によっては、アナフィラキシーショックを起こす可能性がゼロではありません。しかし、この報告は確認できていないため一般的な症状としては考えられていません。
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症状の程度は、刺された人の体質や健康状態、刺された部位、注入された毒液の量によって異なります。通常は、数日から1週間程度で自然に回復します。
刺されないためには

ヨコヅナサシガメによる被害は、ヨコヅナサシガメの生態と習性を理解することでほぼ防ぐことができます。
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素手で触らない:
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ヨコヅナサシガメは普段は目の届きにくい樹上にいるため、小さい子が見つけるとユニークな見た目から興味を引くかもしれませんが、絶対に素手で触ったり、捕まえたりしないようにしましょう。防御行動のため非常に鋭い口吻は簡単に手に刺さり激痛を与えます。
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生息場所に注意する:
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彼らは主に、サクラなどの木の幹や木のうろなどで見られるため、カブトムシやクワガタなどがいそうな場所に近づく際には、ヨコヅナサシガメがいないかどうかもよく確認しましょう。
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服装に注意する:
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森林や公園など、彼らの生息環境に近い場所へ行く際は、肌の露出を避け、長袖や長ズボンを着用することで、刺されるリスクを減らすことができます。
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もし見つけた場合は刺激せずに静かにその場を離れましょう。ヨコヅナサシガメから積極的に人を襲うようなことはないため刺激しなければ刺されることは基本的にありません。
まとめ
ヨコヅナサシガメは、腹部の赤と黒、腹部の縁の白と黒の縞模様が特徴的な外来種の昆虫です。肉食性であり、口吻から毒性のある消化液を注入して他の昆虫を捕食します。
この毒液はタンパク質分解酵素などで構成され、人間が刺されると、ハチに刺されたような激しい痛みと腫れを引き起こしますが、通常は数日から1週間で自然に回復します。
ヨコヅナサシガメは人間を襲うことはありませんが、不用意に触れたり、捕まえようとすると身を守るために刺してくるため、特に夏場に虫取りをするお子さんは刺されないように注意が必要です。
その見た目から興味を引くかもしれませんが、絶対に素手で触らず、静かに観察するに留めることが最も安全な対処法です。
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