霊長類にのみ恐ろしい毒性を示す世にも奇妙で恐ろしい猛毒グモ シドニージョウゴグモ

地上の生き物
Photograph by Austen Armstrong

シドニージョウゴグモとは?

Photograph by Lawrence Hylton

シドニージョウゴグモ(学名:Atrax robustus)は、クモ形綱クモ目ジョウゴグモ科に属するクモの一種で、世界で最も危険なクモの一種として知られている恐ろしい存在です。

体長はメスの方が大きく約3.5cm以上、オスは約2.5cmほどで脚を伸ばした状態では10cm近くになります。、見た目は全身が光沢のある黒色から濃褐色をしています。

鋭く大きな牙は非常に頑丈で、人間の爪はもちろん、革靴の表面さえ貫通させる力を持っていると言われています。

Photograph by Sofia Zvolanek
シドニージョウゴグモの巣

シドニージョウゴグモは糸を使って「漏斗(じょうご)状」の巣をつくることが和名の由来になってます。入り口が広く、奥に行くほど細くなるこの巣の奥に潜み、獲物が巣に触れた振動を感知すると、電光石火の速さで飛び出して獲物を仕留めます。

性格は非常に攻撃的で、脅威を感じると前脚を高く上げ、巨大な牙を剥き出しにする威嚇ポーズをとります。さらに刺激を与えると何度も噛みつく行動をとり、後述する猛毒を注入してきます。

分布・生息環境

Photograph by prossington

オーストラリアのシドニーを中心とした半径約100km以内でよく見られます。非常に限定的な分布ですが、人口密集地に生息していることから人間との接触事故が多くなっています。
乾燥を極端に嫌い、湿り気のある涼しい場所を好むため、森の中の岩の下、倒木の中、樹洞(木の穴)などに、糸で補強されたトンネル状の巣を作ります。
また、住宅街では、庭の石組みの隙間、植木鉢の下、湿った土壌の茂み、さらには家の中の靴の中や洗濯物の山に紛れ込むこともあります。
危険なことに、家庭用プールの底で発見されることが多々あります。シドニージョウゴグモは水中に落ちてもすぐには死なず、腹部の毛に空気を溜めることで、最大で24時間以上も水中で生存可能であるという観察記録があります。
そのため、プールを掃除しようとして底に沈んでいるクモに噛まれるという事故が報告されています。

シドニージョウゴグモの毒

Photograph by prossington

シドニージョウゴグモの毒は、人間を含む霊長類に対してのみ特異的に強い毒性を示すという非常に珍しい性質を持っています。

デルタ・アトラコトキシンの構造図

毒の主成分は、δ-アトラコトキシン(デルタ・アトラコトキシン)と呼ばれる強力な神経毒です。この毒は、神経細胞のナトリウムチャネルに作用し、神経の興奮を異常に高めることで、筋肉の痙攣や自律神経の暴走を引き起こします。

非常に興味深いことに、この毒はイヌ、ネコ、ウサギなどの他の哺乳類にはあまり効果はなく、人間やカニクイザルなどの霊長類だけに致命的な作用を及ぼします。
シドニージョウゴグモの天敵であるトカゲや鳥、獲物となる昆虫類にはこの毒は効果がないことが確認されており、なぜ霊長類にだけ特化した毒を有するようになったのかは今も謎に包まれています。

もしも噛まれると?

Photograph by Austen Armstrong

シドニージョウゴグモのオスが持っている毒の量は0.81 mg程度であるのに対して、カニクイザル(Macaca fascicularis)に対する致死量は0.2 mg/kgと報告されています。
ヒトに対しても同様の強さを示す場合、この強さは青酸カリの数倍と考えられます。もしも噛まれると、以下のような症状が急速に進行します。
    1. 激痛: 巨大な牙による物理的な痛みと、毒の作用による焼け付くような痛み。
    2. 異常な発汗と流涎(よだれ): 自律神経が麻痺し、汗やよだれが止まらなくなります。
    3. 筋肉の痙攣: 全身の筋肉がピクピクと動き、呼吸困難に陥ります。
    4. 血圧の上昇と肺水腫: 心拍数が急上昇し、肺に水が溜まります。 適切な処置が行われない場合、子供であれば15分以内、成人でも数時間以内に死亡する可能性がある言われています。
幸いなことに、1981年にストラアン・サザーランド博士らによって抗毒素(アンチベニン)が開発されました。それ以降、オーストラリア国内でシドニージョウゴグモによる死亡者は一人も出ていません。

噛まれないようするためには?

シドニージョウゴグモの生息域で生活する場合、あるいは訪れる場合は、以下の対策を徹底することが事実として推奨されています。
  1. 靴のチェック:外に置いてあった靴や、玄関に置いてある靴を履く前に必ず中を振って確認する。
  2. ガーデニング時の手袋:庭仕事や石を動かす作業をする際は、必ず厚手の革手袋を着用する。
  3. 床に物を置かない:特に夜間、床に脱ぎ捨てた服やタオルは徘徊するオスにとって格好の隠れ家になるため放置しないこと。また、洗濯物を外から取り込む際も注意する。
  4. プールのフィルター確認:プールのフィルターのゴミ受けや、プールの底に沈んでいるものは、素手で触らず網などを使って確認する。

まとめ

シドニージョウゴグモ(Atrax robustus)は、オーストラリアのシドニー近郊を中心に生息する、世界で最も危険なクモの一種です。
漆黒の光沢を持つ体と、靴をも貫通する強靭な牙、そして霊長類に対してのみ致命的な作用を及ぼす神経毒「δ-アトラコトキシン」を持っているという特徴があります。特に徘徊するオスによる被害が多く、かつては死者も出ていましたが、1981年の抗毒素開発以降、迅速な医療体制のおかげで死亡事故はゼロとなっています。
湿った場所を好み、庭の石の隙間や家庭用プール、時には靴の中に潜むこともあるため、現地では「靴を振る」「手袋をする」といった対策が生活の知恵として徹底されています。
攻撃的な性格ではありますが、人間がその生態を理解し、適切な距離と警戒心を持って接することで、最悪の事態を防ぐことができる生き物でもあります。

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