実は毒を持っていて食べてしまうと危険な地上最大の肉食動物 ホッキョクグマ

片手をあげているホッキョクグマ 地上の生き物

ホッキョクグマ(シロクマ)とは?

2匹のホッキョクグマ

世界には8種類のクマが生息していますが、ホッキョクグマはその中でもヒグマの一種であるコアディアックヒグマと並んで最大の大きさを誇るクマです。別名シロクマとも呼ばれています。
体長はオスで200~250cm、メスは180~200cm、体重はオスで340kgから大きい個体だと800kgを超えると言われています。メスは150~250kgとオスよりも半分から3分の2程度と小柄ですが、身ごもっているときには500kg程度になることもあります。

近年の地球温暖化の影響で流氷が少なくなってしまったため、主な獲物であるアザラシを狩ることができなくなってしまってきているので、80年代と比べて平均体重が数十kgも落ちてしまったといわれています。

氷上のワモンアザラシ

ワモンアザラシ

雑食性で海藻なども食べますが、400kgのホッキョクグマは体重維持のために1日あたり12,000kcalもの量を摂取しないといけないので基本的には肉食の傾向が強く、ワモンアザラシを主食としています。

時にはホッキョクグマよりも大きいセイウチを襲うこともありますが、残念ながらうまくいくことは少なく、70回襲って3回絶命している幼体にありつける程度と狩りの成功率はかなり低いという記録もあります…

1日で70km、1年で1,120kmもの距離を移動した例もありますが、寒さに強く泳ぎも得意なため数時間泳ぎ続けることもできますし、時速6.5kmの速さ(人の歩く速さは時速約4km)で65kmもの距離を泳ぐこともできます。

分布

ホッキョクグマの分布図

Illustration by Jürgen

北アメリカ大陸北部、ユーラシア大陸北部、北極圏に分布しています。

生活圏がヒグマの仲間のハイイログマ(グリズリー)と一部重なっているため、時には争いに発展することもあります。その場合大抵の場合はホッキョクグマが負けてしまい、ハイイログマに軍配が上がります。体の大きさはホッキョクグマの方が大きいのですが、ハイイログマの方が気性が荒く攻撃的なためと考えられています。

また、先住民族であるイヌイットとも生活圏が重なっているので、古くからイヌイットはホッキョクグマを狩猟し食料や防寒具として活用してきたという歴史があります。現在はホッキョクグマが絶命危惧種に指定されているため、イヌイットに対しては狩猟してもいい特例を出しつつも狩猟数の制限を設けています。このように種の存続と歴史や文化を守ろうとしています。

絶滅の危機

2023年現在、ホッキョクグマはIUCNレッドリストのVU(絶滅危惧種)に指定されていて、2020年7月に発表された論文では気候変動(地球温暖化含む)の影響で2100年までにほぼ絶滅すると言われています。

海氷の減少によりアザラシを食べられない→体力低下によりさらに狩れない、といった悪循環になり食いだめができなくなることで、あまり食べられない時期を越せなくなると予想されています。

一方で、ホッキョクグマの歴史は約15万2000年と長く、過去にも寒い時期と暖かい時期を繰り返してきたという歴史があります。約12万年前は現在よりも気温が3~5℃程度高かったということもわかっているので、今とは環境や生息している生物なども違いますが、この地球温暖化にも適応するのではないかと関心を集めています。こんなにかわいい生き物が絶滅しないよう何とか適応して欲しいですね。

ちなみに15万2000年前にホッキョクグマの祖先がヒグマとホッキョクグマに別れたとされています。

持っている毒

3匹のホッキョクグマ

ホッキョクグマは毒を使って狩りをするわけではありません。肝臓に毒を蓄えているのでもしも人間がホッキョクグマの肝臓(レバー)を食べてしまうと中毒症状が現れてしまい、食べた量が多い場合には最悪死に至る危険性があります。

その毒の正体はなんと「ビタミンA」です。体に必要な栄養素であるビタミンAですが、ホッキョクグマの肝臓には1日あたりの摂取上限を大幅に超える大量のビタミンAを含んでいるため、食べてしまうと中毒症状が現れてしまいます。

ビタミンAの摂取量目安

引用:厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」

厚生労働省の1日あたりの摂取上限を示していて、年齢や状況にもよりますが男性は最大でも2,700μgRAE、女性は2,800μgとされています。これを超える量のビタミンAを長期的に摂取してしまうことでも過剰症の症状が現れてしまいますが、1回で約30万μgを摂取してしまうと即日中毒症状が現れることになります。

ビタミンAを豊富に含んでいる人参で100gあたり730μgRAE程度、豚レバー(生)が100gあたり13,000μgRAE、鶏レバー(生)が100gあたり14,000μgRAEとされています。そんな中、ホッキョクグマのレバーには100gあたり50万~100万μgRAEものビタミンAが含まれているので、30g程(焼き鳥1本分くらい)食べてしまうと中毒症状が現れると言われています。

中毒症状

もしもたくさん食べてしまうと摂取して30分~12時間後に激しい頭痛が現れ、さらに嘔吐や発熱などの症状が現れる場合もあります。その後これらの症状は短期間で回復しますが、1~6日後に顔や頭皮の皮膚がぽろぽろとはがれてしまう落屑の症状が現れます。

さらに症状が重い場合には、その症状が全身に広がり、1か月ほどで全身の皮膚がはがれてしまいます。このように回復には20~30日程かかってしまいます。

同じ毒を持っている他の生き物

イシナギ

Photograph by Kurayba

ホッキョクグマと同じ地域に生息しているアゴヒゲアザラシホッキョクギツネの肝臓にも大量のビタミンAが含まれています。ホッキョクグマが肝臓にビタミンAを蓄えている理由は、獲物となるアザラシなどの肝臓にビタミンAが豊富に含まれているため、その獲物を食べても体に異常が出ないように適応してきたからという説もあります。

それから、日本でも一部の人では人気のある大型の魚「イシナギ」の肝臓にはホッキョクグマを超える量のビタミンAが含まれています。その量はなんと1gあたり3.5万~7万μgRAEと非常に多いため5~10g程度食べただけでも中毒症状が現れます。イシナギの肝臓は食品衛生法で販売禁止措置が取られているので、釣り人以外は食べる機会はないのでそこまで心配する必要はありません。

その他にもマグロやカツオ、サメなどの大型の魚やクジラなどの肝臓にもビタミンAが豊富に含まれているので、あまり食べると中毒を起こす可能性があるので注意しましょう。

ホッキョクグマの不思議

2匹のホッキョクグマの子供

毛の色は透明!?

シロクマという名前でも呼ばれるホッキョクグマですが、実は肌の色は真っ黒で毛の色は透明です。それではなぜ白く見えるのかというと、毛の構造がストロー状になっていて毛の表面には小さな穴がたくさん空いているためです。透明の水に光があたると白く見えたりするように、シロクマの毛も光が反射するので真っ白に見えるんです。

保温性能にも優れている構造をしていて、水はけもよく、周りの風景にも溶け込むので住んでいる地域に適応しているとっても素敵な形状です。

道具を使うほど頭がいい

高台からセイウチに石を投げているホッキョクグマの絵

探検家チャールズ・ホールが1865年に出した本の挿絵
Credit: ScienceNews – Polar bears sometimes bludgeon walruses to death with stones or ice(2021)

昔の探検家の記録やイヌイットはホッキョクグマが道具を使うことを見てきたようです。具体的には自分よりも体の大きいセイウチを襲う前に石や大きい氷をセイウチの頭めがけて投げつけて怯んだり弱ったりした隙を狙って襲うようで、絵やオブジェクトとして残っています。

ホッキョクグマがセイウチに石を投げようとしているオブジェクト

Itsanitaq Museum(カナダ)で展示されている像
Credit: ScienceNews – Polar bears sometimes bludgeon walruses to death with stones or ice(2021)

一方で研究者の中では比較的最近まで半信半疑だったようですが、大阪市天王寺動物園のゴーゴくんは実際に道具を使って高いところにある餌を取っている姿も確認されていて、今では道具を使うことも信じられてきています。

熊は頭がいいことでも知られていますが、道具を使うことは今までしっかりと確認されていなかったため非常に注目を集めています。

ホッキョクグマとヒグマの交雑

ホッキョクグマとハイイログマの交雑種

MINOLTA DIGITAL CAMERA

ホッキョクグマとヒグマは非常に近い関係のため交雑することができます。過去には動物園など人工的な環境でしか生まれないと考えられていましたが、自然界では滅多に見られませんが、2006年にカナダの北極圏で確認された不思議な見た目のクマが雑種だったことがDNA鑑定の結果分かったため、自然界でも起こり得ることが裏付けられました。

まとめ

ホッキョクグマは北極圏付近に生息するクマの中でも最大種の動物です。大きい個体は体長2.5m、体重800kgを超える個体もいるため、地上最大の肉食動物ともいわれています。
肝臓には超大量のビタミンAを含んでいるため、もしも30gほど食べてしまうと激しい頭痛や発熱、嘔吐などの症状が現れた後に、落屑の症状が顔や頭皮、全身に現れます。摂取量が多すぎる場合には死に至る可能性もあるのでホッキョクグマの肝臓はたくさん食べてはいけません。
絶滅危惧種に指定されており、論文には2100年までにほぼ絶滅すると言われていますが、過去の環境変化や気象変動にも生き残ってきたので、現在問題になっている地球温暖化にも適応しないかと注目を集めています。

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