フグ毒の130倍の強さを示す超猛毒を持つ身近な昆虫 アリジゴク

アリジゴクの巣 地上の生き物

アリジゴクとは?

ウスバカゲロウ

©entomart

アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫のうち、雨風をしのげる砂地に漏斗状の巣をつくる種類の総称です。ウスバカゲロウは世界に650種以上、日本には17種が確認されていますが、そのすべての幼虫がアリジゴクと呼ばれているわけではありません。日本でアリジゴクと呼ばれているのは17種中4種とされています。

ウスバカゲロウの幼虫は、漏斗状の巣をつくって獲物が落ちてくるのを待つ種類(アリジゴク)と、このような巣はつくらず砂や土の下・岩場や樹木の陰で獲物を待ち伏せして襲い掛かる種類がいます。

アリジゴクは肉食性で昆虫などの節足動物を食べます。クモと同じように捕らえた獲物に消化液を注入して溶かしてから液をちゅうちゅうと吸って食べます。この時、実は獲物を確実に仕留められるように超強力な毒を使うことが分かっています。

ウスバカゲロウとは?

ウスバカゲロウ

ウスバカゲロウ
Photograph by Syrio

ウスバカゲロウは特定の一種を指すこともありますが、ウスバカゲロウ科の総称としても使われています。卵、幼虫、さなぎ、成虫と完全変態する昆虫で、極楽トンボ神様トンボと呼ばれることもあります。

トンボに似た見た目をしていますが、羽を休めているときは背中に対して水平方向にたたむこと、短くて太い触角を持っていること、頭と目が小さめであるという違いがあります。

フタバカゲロウ

フタバカゲロウ

また、カゲロウという名前が付いているように、カゲロウのようにひらひらと飛ぶのでトンボとは飛び方が全然違うことからも判別することが出来ます。

ただし、カゲロウとは全く別の生き物で分類としては親戚でもなく遠い縁の生き物です。

成虫の寿命はカゲロウが数日なのに対してウスバカゲロウの寿命は1ヶ月ほどという違いがあります。

アリジゴクの不思議な生態

アリジゴク

アリジゴク

アリジゴクには不思議で面白い特徴があるのでいくつか紹介していきます。

毒を使って獲物を確実に仕留める

アリジゴクはフグ毒で有名な超猛毒「テトロドトキシン」の130倍もの毒性を示す毒を有効活用していることが研究の結果わかっています。

このものすごい毒をどのように手に入れているのか、人間に危害がないのかなど、詳しくは[アリジゴクの毒]で紹介しています。

食べなくても長期間生きる

アリジゴクは自ら餌を取りに行かず、いつ獲物が落ちてくるかは完全に運次第なので時には何日も食べられない時もあります。アリジゴクの研究をしている過程で3か月ほど食べずとも生き残った個体もいるなど、長期間食べることが出来なくても生き残ることができるという特徴があります。

また、長時間動かないので排泄はどのようにしているのかな?と思うかもしれませんが、実は幼虫の時にはウンチをしない、ということが分かっています。成虫になる羽化の時にたまったウンチをまとめて出します。

ちなみに、おしっこはすることを2010年に当時小学4年生が再発見したことが話題になっています。(1998年に排便はしないが尿をすることに関する論文が発表されていましたが長年確かめられてこなかったようです)

後ろにしか下がれない

アリジゴクは前進することは基本的にできず後ろに下がることしかできません。巣をつくるときも食べるときもほとんど動く必要がなく前進する必要がないのです。

ただし、卵から孵ったばかりの初期の幼虫は前進して獲物を捕らえることが確認されています。いつ食べられるかわからない分、巣をつくってしっかりと待ち構える準備を整えるまでは自分から栄養補給しにいくと考えられます。

アリジゴクの毒

アリジゴクの拡大

アリジゴクの消化液(吐き戻し液)には超強力な殺虫性タンパク質(GroEL, ALMB-toxin)が含まれています。巣穴に落ちた獲物は大顎でつかまれた後に消化液を注入されますが、その直後にすぐに麻痺症状などが現れて逃げ出すことが全くできずそのまま食べられてしまいます。

消化液には様々なタンパク質性の有毒成分が含まれていますが、その中のALMB-toxinは昆虫に対する毒性がフグ毒で有名なテトロドトキシンの130倍という超強力な毒性を示します。
この他にも強力な昆虫に対して強力な毒性を示す有毒成分も発見されているため、注入されてしまった昆虫はひとたまりもありません。

この毒はアリジゴクと共生(共存)している微生物(Enterobacter aerogenesなど)に由来しています。消化液を溜めている袋(そ嚢)には多数の昆虫病原菌が繁殖しています。アリジゴクは獲物を確実に仕留めるための毒を提供してもらい、病原菌は獲物に増殖して個体数を増やすことが出来るのでWIN-WINの関係が築かれています。

アリジゴクに消化液を注入された獲物は数日で黒く変色し腐敗臭などを発することが、アリジゴクには病原菌由来の毒を持っていることの発見につながりました。

人間に害はある?

結論から言うと人間に害はありません。テトロドトキシンの130倍の強さを示す有毒成分もありますが、これはあくまで昆虫に対する毒性なので人に対する毒性はまた異なる毒性を示します。

それから、もし人体に有害であったとしても症状が現れるほどの量を注入されるリスクはほぼありません。昆虫に比べて人間は非常に重く、例えばアリは1~5mg程度と言われているため、人はその1,000万倍以上の重さがあるので全く心配する必要はありません。ちなみに研究で有毒成分を特定するために万単位の個体を必要としたと言われています。

また、人の皮膚を突き破れるほどの威力はないのでそもそも注入される可能性も低いです。

昆虫食として食べている人もいましたが、加熱することで失活するのでこの毒による影響もなくなります。(その他の影響はわかりませんが・・・)

まとめ

アリジゴクは一部のウスバカゲロウの幼虫のことです。消化液を注入して溶かしてから獲物を食べますが、その消化液にはテトロドトキシンの130倍以上の強さを示す有毒成分が含まれています。

人体に影響を与えるほどの量は持っていないためあまり気にする必要はありませんが、昆虫に対しては非常に強力な毒です。この毒はアリジゴクと共生している昆虫病原菌が生成しており、WIN-WINの関係を築いています。

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