ギンピギンピとは?
ギンピギンピは高さ10cm~1m程度、最大で4~5mほどの大きさになるイラクサ科イラノキ属に属する猛毒を持つ被子植物です。
葉っぱは楕円やハート型のよくある形状をしていて、大きさは20cmほどになります。
イラノキ属には2023年4月時点で42種が確認されていて、いずれも毒を有していますが、ギンピギンピはその中でも最強と言われています。
その凶悪性を示すかのように、ギンピギンピには様々な異名があり、スティンガー(刺すもの)という言葉が入ってるものも多いです。これは、ギンピギンピの根を除くすべての部位に無数の極小トゲ(刺毛)があり、ここに強力な神経毒があるためこのような別名となっています。中には不吉な名前もある恐ろしい植物です。
一方で現地の生態系には非常に大きな役割を担っていて、一部の小型有袋類や虫、鳥類には毒が効かず食べられるので良い栄養源になっています。
ちなみに、被子植物のため綺麗な果実をつけます。実自体には毒はありませんが刺毛はたっぷりついているので取り除かない限り食べてはいけません。
イラクサ科イラノキ属は基本的に「雄花をつける株」と「雌花をつける株」が別々なのですが、ギンピギンピはその中では特異的で、1つの株が雄花と雌花をつける雌雄同株という特徴があります。
分布・生息地
オーストラリア北東部の湿潤な熱帯地域を主に限られた地域にのみ分布しています。熱帯地域の中でもジャングルと開けた場所の境界部分に群生することが確認されています。これは、ギンピギンピの種が土壌撹拌の後に太陽光を浴びることで発芽するためとされています。
オーストラリアのクイーンズランド州では一般的にみられる植物ですが、オーストラリア南部では珍しいため、ニューサウスウェールズ州では絶滅危惧種に指定されています。
ギンピギンピは2023年7月にイングランドのノーサンバーランド州にある植物園「アニックガーデン」に展示されたことがニュースになっています。
ギンピギンピの仲間
ギンピギンピの仲間には、高さ40m、幅6mを超えるような大型の木になる種もあります。大木になる種は「Dendrocnide excelsa」「Dendrocnide photinophylla」の2種類があり、どちらも猛毒を持っているため、現地ではギンピギンピと同じような名前で呼ばれています。ちなみにギンピギンピの学名は「Dendrocnide moroides(デンドロクニド・モロイド)」です。
「Dendrocnide excelsa」の地上付近にはにはギンピギンピと同じ刺毛と猛毒を持っているので触らないように注意する必要があります。
この針は溶接用の分厚い手袋をつけても完全に防ぐことはできないとされています。
毒性
ギンピギンピの葉や枝にはガラスの主成分である二酸化ケイ素(シリカ)の鋭い針が無数についており、触ったりかすっただけでもその針が皮膚を突き刺すとともに神経毒を注入します。
この神経毒は想像を絶する苦痛を与えることが知られており、「酸をスプレーされたような痛み」「火を付けられた上で感電するような痛み」などと言い表されています。
刺されるとすぐに灼熱感と激しい痛みに襲われます。その後30分程経つとさらに痛みが増して、痛さのあまり嘔吐してしまうほどの痛みが続きます。場合によってはリンパ節(脇付近)も腫れて刺された時と同じくらいの痛みを引き起こすこともあります。あまりの痛さに嘔吐やショック症状などを引き起こすこともあるようです。
さらに恐ろしいことに、適切に対処できないとこの激しい痛みが数か月から数年続くこともあり、あまりの辛さに自ら命を絶ってしまう人も出てくるほどと言われています。
実際に刺されてしまった人の事例として、顔と胴を刺されてから2,3日は耐えられない痛みに襲われ働くとこも眠ることもできないほどだったそうです。その後2週間以上も激しい痛みに襲われ続け、定期的に来る激痛は2年間も続き、冷たいシャワーを浴びたときにはそれ以降も痛みに襲われたようです。
成分
ヒスタミン、アセチルコリン、5-ヒドロキシトリプタミン、ギ酸、モロイジンなど様々な成分が含まれています。初期の研究ではなぜここまで猛烈な痛みが長期間も続くのか分かっていませんでした。
その後1970年頃にモロイジンという成分が新たに発見されましたが、実験の結果この成分が主要因でもないだろうと判断されていました。その後も研究が続けられ、2020年に主要因だろうとされる新しい成分が発見され、その成分は「ギンピエチド類(gympietide)」と名付けられました。
ギンピエチドはクモやイモガイの毒素に似ているタンパク質(ペプチド)で、恐ろしいことに恒久的に近くニューロンのナトリウムチャネルを永続的に変化させることがわかりました。つまり、一度刺されてしまうと永続的に痛覚がおかしくなってしまい、外傷もなく本来痛くないはずなのに脳が痛いと感じてしまうというようなことが起きる可能性が示唆されました。
ギンピエチドは化学的に非常に安定した構造の物質のため、100年前に保管されたギンピ・ギンピを触ってしまっても痛みに襲われると言われている程です。このような性質もあって長年痛みが続くのだと考えられています。
アレルギー症状
ギンピギンピの研究者は長期間ギンピギンピと接することになりますが、長期間暴露されることによりアレルギー症状が現れた事例があります。
最初はくしゃみ、ひきつけ、催涙、鼻水などが数時間続くような症状でしたが、さらにギンピギンピに接したことで症状の悪化とともに激しいかゆみと蕁麻疹が出るようになり入院を余儀なくされたほどでした。
もしも刺さってしまったら?
推奨される治療方法として、ワックス脱毛による刺毛の除去があり劇的な効果があることがわかっています。早急な対応が難しい場合には粘着テープとピンセットによる刺毛の除去する方法もありますが、このとき刺毛が折れて体内に残らないように細心の注意を払う必要があります。
別の方法として10倍に希釈した塩酸の塗布という方法もあります。
ちなみにホットワックスを使う場合、痛みが倍増する可能性があるので気の弱い人は注意する必要がある、と言われています。
逸話
ギンピギンピに関わる逸話に、トイレットペーパーの代わりにギンピギンピの葉を使ってお尻を拭いてしまった人があまりの痛さに自殺してしまった、という話は一部で有名ですが、実際には手で触った瞬間に手に無数の刺毛が刺さり激しい痛みに襲われるため、お尻を拭いているどころではなくなるだろう、ということからホラ話と考えられています。
ちなみに、海外だとトイレットペーパーの代わりに使ったら1週間は座れなかった、という逸話があるようで、日本に持ってきた際に誇張された可能性もあります。ただ、本当だとしたら生きていけないくらいの苦痛に見舞われることは想像に難くありません。
まとめ
ギンピギンピはとてつもない猛毒を持っているオーストラリアの一部に生息する被子植物です。
2020年にギンピエチドという新しい成分が発見され、これがギンピギンピ特有の激烈な症状の原因と考えられています。その強烈な毒が直接人を死に追いやることはほとんどありませんが、あまりの苦痛に間接的に死に追いやる可能性もあるほどです。一方で現地の虫や鳥類、小型有袋類は食べることができるためいい栄養源になっています。
刺されてしまったら脱毛ワックスを使って刺毛を除去することで劇的に症状を抑えることが分かっています。
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