植物界で最も強い猛毒成分が含まれている美しく素敵な香りがする危険な植物 ゲルセミウム・エレガンス

植物
Photograph by Toby Y

ゲルセミウム・エレガンスとは?

Photograph by HUANG QIN

ゲルセミウム・エレガンス(Gelsemium elegans)は、マチン科ゲルセミウム属に属するつる性の常緑低木で、日本では、冶葛(やかつ)、鉤吻(こうぶん)などと呼ばれたり、断腸草、毒根など物騒な名前で呼ばれることもあります。
蔓性の樹木で他の植物に絡みつきながら成長し、長さは3~12mにもなります。葉は対生し、光沢のある濃緑色で、楕円形から披針形をしています。

Photograph by 九天

何よりも特徴的なのがその花で、5月から11月頃にかけてトランペットを開いたような鮮やかで綺麗な黄色い花を咲かせます。

日本でも園芸植物として人気のあるカロライナジャスミンにも似ていることからその美しい見た目と香りで人々を魅了しますが、全草には世界最強の植物毒とも言われる猛毒が含まれています。

分布・生息環境

ゲルセミウム・エレガンスの原産は東南アジアから中国南部とされており、原産地の周辺地域に分布しています。
生息環境としては、日当たりの良い山の斜面や道端の草むら、雑木林や低木の茂みを好み、他の植物に絡みついて成長していきます。
海抜が500~2000mと比較的標高の高い地域に分布しており、日本には自生していませんが、カロライナジャスミンと混同されることがあります。

ゲルセミウム・エレガンスの毒

Photograph by Toby Y

ゲルセミウム・エレガンスには世界最強の植物毒とも呼ばれる有毒成分「ゲルセミン(Gelsemin)」や「コウミン (Koumine)」、「ゲルセミシン (Gelsemicine)」などのアルカロイド系の毒性成分が全身に含まれているためです。

ゲルセミンの構造図

その致死量は非常に少ないことでも知られており、ゲルセミシン (Gelsemicine)単体の致死量は約0.05 mg/kgと評価されているようにものすごい強さの毒性を示します。(青酸カリは約5~10mg/kg)
乾燥葉の粉末で量を示すとわずか0.1g〜0.2gが致死量になるとも言われており、これは茶さじの半分にも満たない量と非常に少ない量です。いかに強力な毒であるかがわかると思います。
もっとも毒性が強い部位は若芽とされていますが、それ以外のすべての部位にも有毒成分が含まれているため、どこを食しても死に至る危険性があります。
一方で部位や加工のされ方によって症状が現れる時間が変わると言われており、若芽、根の煎汁、葉の乾燥粉末は早く、そのまま食したりすると遅いとされ平均して1時間程度で症状が現れます。
症状は摂取後数分から数時間以内に現れ、初期には口渇、吐き気、嘔吐、めまい、筋力低下などが見られます。その後、視覚障害(複視)、嚥下困難、呼吸困難、全身の痙攣、最終的には呼吸麻痺や心停止に至ります。もしも摂取してしまった場合は、適切な処置を迅速に行わなければ死に至る可能性が極めて高い毒と言えます。

有毒成分の利用

漢方
ゲルセミウム・エレガンスの強力な有毒成分は、古くからその危険性が認識されてきましたが、一方で、その毒性を制御することで、医療的な利用が試みられてきた歴史もあります。
伝統医学においては、非常に微量のゲルセミウム・エレガンスが、鎮痛剤や喘息治療などとして利用されてきたとされています。しかし、その毒性が強すぎるため、非常に慎重な扱いが必要とされ、専門的な知識を持たない者が使用することは極めて危険であり、多くの医学書に「内服は厳禁」と記されてきました。
ゲルセミウム・エレガンスの毒性成分が詳細に研究されるようになると、その作用機序が解明され、より安全で効果的な代替薬が開発されるようになりました。そのため、現在ではゲルセミウム・エレガンスが直接的に医薬品として用いられることはほとんどありません。

日本に宝物として持ち込まれた!?

正倉院

奈良県にある正倉院で保管されていた宝物の中に冶葛(かやつ)が残されています。記録によると32斤(16kg)もの量が持ち込まれたとされていますが、現存するのはたったの390gしかありません。
記録によると、かなりの量が使われたとされていますがその用途はわかっていません。15kg以上ともなると数千~数万人もの命を奪えるほどの量になりますが、いったい何に使われたのか・・・いまとなってはわかりません。
1996年に残っている冶葛が分析されましたが、1200年以上経っているにも関わらず、ゲルセミウム・エレガンスの持つ強力な有毒成分が検出され、この冶葛がゲルセミウム・エレガンスであることが証明されました。
1200年以上も保管されていたということもすごいですが、これらの有毒成分が分解されずに保持されていたということにも驚きです。

まとめ

ゲルセミウム・エレガンスは、その美しさとは裏腹に、極めて強力な毒性を秘めた植物です。甘い香りを放つ黄色い花は、まるで死を誘うかのような魅惑的な姿をしていますが、その全ての部位にアルカロイド系の猛毒が含まれており、誤って摂取すれば命に関わる深刻な中毒を引き起こします。
この植物は、東南アジアから中国南部が原産で、海抜500~2000mと標高の比較的高い日当たりの良い場所を好みます。日本には自生していないため目にすることはありませんが、カロライナジャスミンと間違われることもあります。
かつては漢方としてぜんそく治療や解熱、鎮痛剤として利用されたこともありますが、その毒性の強さから現代ではほとんど医療目的で用いられることはありません。
私たちにとって重要なのは、ゲルセミウム・エレガンスの危険性を正しく認識し、不注意による事故を防ぐことです。もし、この植物らしきものを見かけた場合は、絶対に触れたり口にしたりしないように注意しましょう。

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