3mを超える巨大な身体に恐ろしい歯と猛毒を持つ海のギャング ドクウツボ

水中の生き物

ドクウツボとは?

ドクウツボ(学名: Gymnothorax javanicus)は、ウナギ目ウツボ科に属する大型の海水魚で、その名の通り「毒を持つウツボ」として知られている海のギャングです。
ドクウツボは、成長すると全長は最大で3メートル、体重は30kgにも達することがあるウツボ科の中でも特に大型の種です。

大きなドクウツボ

体色は褐色を基調とし、全身に不規則な暗色の斑点や網目模様が散在します。特に、頭部から体側にかけて見られる黒っぽい斑点が特徴的で、皮膚は鱗がなくヌメリがあります。

口は大きく、非常に鋭利な円錐形の歯が多数並んでいて、これらの歯は捕らえた獲物を逃がさないように内側に向かって生えていることと強力な顎の力が相まって獲物をしっかりと捕らえるのに役立っています。
夜行性のため日中は岩の隙間やサンゴの陰などに潜み、外敵から身を守りながら休息しています。夜になると活動をはじめて魚類を中心に捕食しますが、甲殻類を食べることもあります。
強力な毒棘を持つミノカサゴであっても捕食することができ、成魚になると天敵はほとんどおらず頂点捕食者としてその海域に君臨します。
ドクウツボの性格は一般的には臆病で警戒心が強いとされており、通常は人間に積極的に襲いかかることはありません。
しかし、縄張り意識が強いため縄張りを侵害されたと感じた場合や、追い詰められた場合、あるいは不用意に手を差し入れた場合などには、威嚇のために口をあけて歯を見せたり、身を守るために噛みついてきたりすることがあります。
その強力な顎と鋭い歯による咬傷は非常に深く、重傷を負う可能性があるため、水中では安易に近づかないことが重要です。また、釣り上げた際なども不用意に触るのは非常に危険です。
ちなみに、掃除魚であるベラに口内を掃除してもらうといった共生関係を築いています。

分布・生息環境

ドクウツボは、太平洋、インド洋の熱帯から亜熱帯海域に広く分布しています。その生息域は非常に広範囲に及びます。
日本では、主に沖縄県や鹿児島県南部の琉球列島周辺の温暖な海域で見られ、サンゴ礁域、岩礁域、ラグーンなど身を隠せる隙間が多く、餌となる小魚や甲殻類が豊富な場所を好んで生息しています。
水深は、数メートルの浅い場所から、数十メートルのやや深い場所まで確認されています。
サンゴ礁の健全な生態系の一部として、その隙間や洞窟を住処とすることが多く、日中はほとんど動かず、頭部だけを外に出している姿がよく見られます。

ドクウツボの毒とは?

ドクウツボが持つ毒は、自ら産生するものではなく、食物連鎖を通じて体内に蓄積されるシガテラ毒です。

生物濃縮のイメージ図

シガテラ毒は、熱帯・亜熱帯のサンゴ礁域に生息する微細な藻類(有毒渦鞭毛藻など)が産生する自然毒で、摂取した生物は体内に蓄積されていき、小型の魚介類から大型の肉食魚へと食物連鎖によって濃縮されていきます。

シガテラ毒にはシガトキシン、スカリトキシン、マイトトキシン、シガテリンなど様々な種類が確認されており、その種類により毒性も異なってきます。

ドクウツボは、これらの有毒成分を蓄えたな魚を捕食することで、体内にシガテラ毒を蓄積し強力な毒性を示すことがあります。

シガトキシンの構造図【クリックで拡大】

このように、獲物が持っている毒を体内に溜めるだけなので、噛みついて毒を注入するようなことはありません。ドクウツボによる中毒症状は、毒を蓄えたドクウツボを食べることによって発症します。

シガテラ毒は、加熱しても毒性が分解されませんそのため、調理方法に関わらず有毒な魚を食べると中毒を起こします。また、シガテラ毒を持っているか否かの判断はできないため、特に大きなドクウツボを食べることは避けるようにしましょう。

シガテラ毒による中毒の症状

シガテラ毒による食中毒は、摂取後数時間から24時間以内に症状が現れることが多いですが、場合によっては数日後に発症することもあります。
また、一度シガテラ中毒にかかると、その後に少量のシガテラ毒を摂取しただけでも症状が再燃したり、重症化したりする「過敏症」となることがありため、中毒になったことがある人は特に注意が必要です。
症状は非常に多様で個人差が大きいですが、主に以下の症状が現れます。

神経症状

神経細胞(ニューロン)

シガテラ中毒の最も特徴的で長く続く可能性のある症状で、手足のしびれ、知覚異常(特にドライアイスセンセーション:冷たいものに触れると電気が走るような、またはヒリヒリするような感覚)、口の周りのしびれ、関節痛、筋肉痛、倦怠感、めまい、平衡感覚の失調、全身の痒みなどの症状が現れます。

重症の場合には、運動麻痺、呼吸困難、不整脈、血圧低下、意識障害を引き起こすこともあります。
これらの神経症状は、軽症な場合には1週間程度で回復しますが、重症な場合には数か月~数年かかることもあり非常にやっかいです。

循環器症状

徐脈(脈が遅くなる)、不整脈、血圧低下などが現れることがあります。

消化器症状、その他

吐き気、嘔吐、下痢、腹痛が主な症状です。食後比較的早期に現れることが多いですが、数時間から数日で治まることが多いです。

また、脱力感、疲労感、頭痛、発熱を伴うこともあり、症状の程度は摂取した毒素の量や個人差によって大きく異なります。

もしも食中毒になったら?

ウツボのたたき

Photograph by Totti

もしもドクウツボなどのシガテラ毒を持つ魚を食べてシガテラ中毒の症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診することが最も重要です。

  1. 直ちに医療機関を受診する:
    • 症状が現れたら、すぐに救急外来を受診するか、救急車を呼びましょう。
    • いつ、どこで、どのような魚を、どれくらいの量食べたかを医師に詳しく伝えることが非常に重要です。可能であれば、食べた魚の一部や調理残骸をビニール袋に入れて持参すると、原因究明に役立つことがあります。
  2. 脱水症状に注意する:
    • 下痢や嘔吐がある場合は、脱水症状を起こしやすいので、水分補給を心がけましょう。経口補水液やスポーツドリンクなど、電解質を含むものが推奨されます。一気に飲むのではなく少量ずつこまめに摂取しましょう。
  3. 安静にする:
    • 体の消耗を避けるため、安静にして体を休ませましょう。
  4. 自己判断で薬を服用しない:
    • 下痢止めや吐き気止めなどの市販薬は、体内の毒素の排出を妨げたり症状を悪化させたりする可能性があるため、医師の指示なしに服用することは避けましょう。
  5. アルコールの摂取を避ける:
    • アルコールは症状を悪化させる可能性や、回復を遅らせる可能性があるため、回復するまでは摂取を避けましょう。
  6. 症状が改善しても油断しない:
    • シガテラ毒の神経症状は、治癒に時間がかかったり、再燃したりすることがあります。症状が一旦改善しても、医師の指示に従い、経過観察を続けることが大切です。
    • 一度中毒になると、その後はごく微量のシガテラ毒にも過敏に反応する体質になることがあるため、シガテラ毒魚の摂取は二度と行わないようにしましょう。
シガテラ中毒には特効薬は現在のところなく、治療は主に症状を和らげる対症療法が中心となります。早期に医療機関を受診し適切な医療を受けることが症状の重症化を防ぎ、回復を早めるために不可欠です。

まとめ

ドクウツボは、熱帯・亜熱帯のサンゴ礁域に広く生息する大型のウツボで、その名の通りシガテラ毒を体内に蓄積する可能性があります。

この毒は、有毒な藻類を起点とする食物連鎖を通じて濃縮され、加熱調理しても分解されません。

シガテラ中毒の症状は、吐き気や下痢といった消化器症状に加え、手足のしびれや冷感異常(ドライアイスセンセーション)といった特徴的な神経症状、さらには不整脈などの循環器症状が現れることがあります。

また、症状は長期化する場合もあり、命に関わる危険性は低いとされていますが万が一の可能性を考慮し、シガテラ毒による中毒が疑われる場合は直ちに医療機関を受診し、食べた魚の情報などを正確に伝えることが重要です。

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