青酸カリの3000万倍!史上最強の毒素を生み出す身近にいる細菌 ボツリヌス菌

微生物

ボツリヌス菌とは?

培養されたボツリヌス菌

ボツリヌス菌
Photograph by Matthias M.

ボツリヌス菌はクロストリジウムの細菌で自然界の毒素の中で最も強い毒「ボツリヌストキシン」を生産することが知られていて、現在はA型〜G型の7種類に大別されています。
19世紀のヨーロッパでハムやソーセージを食べた際に食中毒がよく起きたことからラテン語でソーセージや腸詰めの意味を持つ「botulus」が名前の由来になっています。
野菜を瓶に詰めている女性ボツリヌス菌が生産する毒素「ボツリヌストキシン(ボツリヌス毒素)」は青酸カリの3000万倍にもなる強さを誇っており、テロリストによって使われることが懸念されています。

ボツリヌス菌が繁殖した食品を食べることによる食中毒がもっとも身近な事例ですが、注射器の使い回しなどによる中毒事例もあります。

きちんと管理されていない自家製の瓶詰めなどで事故が起きていますが、過去には真空パックされた辛子レンコンの殺菌処理が不十分だったため36人がボツリヌストキシンによって中毒症状を発症し、そのうち11人が亡くなるという事故が起きています。最近は衛生管理が徹底されているため事故事例はほとんど確認されていません。

ボツリヌス菌の好む環境

ボツリヌス菌は土壌や海、川、湖沼など様々な場所に世界中に分布している非常に身近な嫌気性の細菌です。
酸素がある場所では、「芽胞」と呼ばれる耐熱性、耐環境性に優れたタネのような状態で存在しています。この状態では増殖もせず毒も出しませんが、低酸素状態になると発芽・増殖を始めてボツリヌストキシンを生産します。
芽胞を殺菌するには120℃で4分加圧加熱しないといけないので一般的な調理方法では、完璧に殺菌することは難しいので注意が必要です。
殺菌できなくても増殖しなくなる条件は酸素以外にもいくつかあります。
項目
繁殖できない条件
酸素濃度
0.75%以上
温度
3℃未満
pH
4.6以下
水分活性
0.94以下
用語解説
水分活性(Aw):Water Activity
「自由水」と「活性水」の割合で0〜1で示します。値が大きいほど「自由水」の割合が大きく、細菌などが増殖しやすいことを表します。0.6以下になると、全ての微生物は増殖できなくなります。乾燥させたり、塩分や糖分などを入れるほど水分活性は低くなります。
自由水:食品中の移動が簡単にできる水
活性水:塩分や糖分などと結合した水

ボツリヌストキシンの毒性

ハロウィン用の瓶とドクロ

食べてしまうと?

ボツリヌストキシンには神経伝達物質であるアセチルコリンの放出を妨げる作用があり、もしも摂取してしまうと腹痛、嘔吐、吐き気、下痢、便秘などの症状が現れます。
その後、めまい、頭痛、瞼が落ちる、視力低下、複視などの症状が現れ、四肢の麻痺などに繋がっていきます。最終的には呼吸困難や呼吸不全といった症状により死に至ります。
多くの場合食後12〜36時間の間に中毒症状が現れますが、中には6時間以内に発症したり10日ほど経ってから発症した事例もあります。

乳児ボツリヌス症

日本では生後1年未満の赤ちゃんがハチミツや井戸水などボツリヌス菌が芽胞の状態で存在するものを摂取することで発症することが確認されています。
赤ちゃんは腸内環境が整っていないためハチミツなどボツリヌス菌が含まれる可能性のあるものを食べてしまうと腸内でボツリヌス菌が増殖して出される毒素により発症する可能性があります。(大人の場合は腸内環境が整っているので芽胞を摂取しても大丈夫です。ただし、最近が繁殖して毒素が出ていると中毒になります)

致死量

ボツリヌストキシンは現在確認されている中で最も強力な毒素です。
その強さはマウスに対してはなんと青酸カリの3000万倍以上、ヒトに対しては摂取方法にもよりますが、経口投与の場合5000倍以上、吸入の場合は300万倍以上にもなります。
毒素も菌と同様にA〜G型の7種類に分けられていて、ヒトに対してはA, B, E, Fの4種類で中毒を起こすことが多く、C, D型は鳥類や哺乳類に対して中毒を起こすことが多いとされています。このように毒性の強さはボツリヌストキシンの種類や対象、摂取方法によっても変わります。
成分名
マウスの致死量(LD50)[μg/kg]
ボツリヌストキシンD型
0.0003
ボツリヌストキシンA型
0.0011
青酸カリ
10,000
成分名
ヒトの致死量[μg/kg]
経口摂取
非経口摂取
吸入
ボツリヌストキシンA型
1
0.9
0.09
青酸カリ
5,000
用語解説
LD50(50%致死量、半致死量):Lethal Dose 50
ある一定の条件で動物にある物質(成分)を投与した場合に、動物の半数を死亡させる物質(成分)の量を示しています。LD50を使うことでその物質(成分)の毒性を比較することができます。一般的にはLD50 1500mg/kg以上の物質(成分)が安全とみなされています。

予防方法

ガスコンロで火にかけている鍋
低酸素状態となる食品を食べないのが最大の予防ですが、なかなかそういうわけにはいかないと思うので、大きく分けて以下の2段階で気を付けること重要になります。
  1. 低酸素状態など繁殖できる環境になる食品は芽胞を殺菌できる温度で加熱する(120℃で4分)
  2. 繁殖した可能性のある食品は食べない/分解できる温度で加熱する(100℃で10分)
ボツリヌストキシンが増殖できなくなる条件は以下の表の通りです。
項目
条件
酸素濃度
0.75%以上
温度
3℃未満
pH
4.6以下
水分活性
0.94以下
水分活性の参考値

食べてしまったら

ハチミツをたっぷりかけたパンケーキ
すぐに医療機関を受診するとともに、原因になったであろう食べ物の情報も控えておきましょう。抗毒素と対症療法による治療が行われます。
ボツリヌストキシンはその超強力な毒性によりボツリヌス症(中毒)が発症して、放置した場合は致死率が40〜50%にもなります。
一方で適切な対処を行うことで致死率を5〜10%にまで下げることができると言われています。

活用

美容整形を受ける若い女性
ボツリヌストキシンには筋肉の収縮を妨げる効果があるため、致死量の数十分の一〜千分の一という微量を用いることで医療や美容の分野で活用されています。

医療

国にもよりますが眼瞼痙攣、片側顔面麻痺、斜視、多汗症などへの使用が承認されています。
徐々に使用できる症状も増えてきており、過活動膀胱や慢性偏頭痛などにも使用されています。

美容

シワ取りやエラ取りなどに使用されていて効果は数ヶ月ほどあるようです。
中でもボトックスビスタは2009年に厚労省の認可もとれており国内外合わせて1,100万人以上の使用実績があると言われています。また、美容外科の分野で約半数ものシェアを誇っているというデータもある非常に信頼性の高いものです。

まとめ

ボツリヌス菌はボツリヌストキシンといあ自然界における最強の毒素を出す細菌です。
どこにでもいる細菌ですが、低酸素状態など特定の限られた条件でしか増殖できないため国内での中毒事例は限られていますが、自家製の飯寿司や真空パックされた食品を食べて中毒を起こし、死亡した事例も報告されています。
ハチミツにはボツリヌス菌の芽胞が含まれている場合があるため、腸内環境の整っていない赤ちゃんに食べさせてはいけません。
十分に加熱することで殺菌や毒素の分解ができるので食べる前にかなりしっかりと加熱すれば中毒のリスクを減らすことができます。
ボツリヌストキシンには筋肉の収縮を妨げる効果があるので医療や美容にも使われています。

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