フグ毒を持つ法螺貝がいる!?大きくて美味しいのに危険な巻貝 ボウシュウボラ

水中の生き物
Photograph by Shaun Lee
日本に生息する巻貝の中でも最大級のサイズであるホラガイ(法螺貝)ですが、身は食用として、貝殻は楽器として活用されてきました。
そんなホラガイの近縁種である大きな巻貝に、食べてしまうと死に至るような猛毒を蓄えている種類がいます。今回は日本にも生息する思わず食べたくなるような危険な巻貝を紹介していきます。

ボウシュウボラとは?

Photograph by Javier

ボウシュウボラ(学名:Charonia lampas sauliae)は、フジツガイ科ホラガイ属に分類される大型の巻貝です。
名前に「ボウシュウ(房州)」と付く通り、千葉県の房総半島付近で多く見られたことからこの名前が付けられましたが、実際にはもっと広い範囲に生息しています。
殻高(貝殻の高さ)は20cm前後に達し、大きな個体では30cmを超えることもあります。貝殻は非常に頑丈で、形はラグビーボールのような紡錘形をしていて表面にはゴツゴツとした太いすじがあり、茶色と白の斑模様が特徴的です。
ボウシュウボラは磯のハンターでもあり、主にヒトデ類を好んで食べることが知られています。
強力な酸性の唾液でヒトデの骨格を溶かしながら捕食するという、なかなかにワイルドな生態を持っています。このヒトデを食べるという食性が、後に解説する恐ろしい毒の原因となっています。

分布・生息環境

Photograph by Javier

ボウシュウボラは、比較的温かい海を好む貝で、日本では房総半島以南の本州、四国、九州、そして沖縄までの沿岸域に広く分布しています。日本以外では、朝鮮半島や中国沿岸など、西太平洋の温帯〜亜熱帯域で見ることができます。
生息環境としては、潮間帯(潮の満ち引きがある場所)から、水深50m程度までの岩礁域やサンゴ礁の周辺に生息しています。砂泥底よりも、岩がゴロゴロしている場所を好みます。
磯遊びを楽しめるような岩礁で見られたり、磯釣りの外道として掛かったり、素潜り漁で獲られたりすることも多いため、海辺に住む人や釣り人にとっては意外と身近な大型貝といえるでしょう。

ボウシュウボラの毒

ボウシュウボラが持っている毒の正体は、フグ毒で有名なテトロドトキシンです。
ボウシュウボラは生まれつき毒を持っているわけではなく、好んで食べるヒトデ類がテトロドトキシンを保持しており、それを食べることで体内に毒が濃縮されていく「生物濃縮」によると考えられています。

生物濃縮のイメージ図

そのため、ボウシュウボラがイモガイのように刺して毒を注入するようなことはしないため、触る分には危険性は低いと言えます。

テトロドトキシンは主に「中腸腺(内臓)」に蓄積されています。筋肉(足)の部分には通常毒はありませんが、内臓を傷つけたり、処理が不十分だったりすると毒が移ってしまう危険があります。
1970年代から80年代にかけて、静岡県、和歌山県、宮崎県で各1件のボウシュウボラによる食中毒事件確認されています。
すべての個体が毒を持っているわけではなく、地域や個体、時期によって毒量には大きな差があります。しかし、外見から毒の有無を判別することは不可能です。

中毒にならないためには?

Photograph by Shaun Lee

ボウシュウボラによる食中毒を防ぐための鉄則はシンプルです。
  1. 内臓(中腸腺)を絶対に食べないこと! ボウシュウボラの毒はほぼ内臓に集中しています。身を食べる場合でも、内臓を完全に、そして慎重に取り除く必要があります。
  2. 素人調理を避ける 内臓を取り除く際に、中腸腺を傷つけて毒液を身に付着させてしまうリスクがあります。また、内臓の一部が身に残っているだけで中毒を起こす可能性があります。
  3. 加熱を過信しない テトロドトキシンは熱に非常に強い毒です。煮ても焼いても毒性は失われません。「しっかり火を通せば大丈夫」という考えは、この毒には通用しません。
もし万が一、ボウシュウボラを食べて口の中がしびれるなどの違和感を覚えたら、一刻も早く医療機関を受診が求められます。
テトロドトキシンに有効な解毒剤はないため、病院での胃洗浄や人工呼吸器による全身管理が生存のための唯一の手段となります。

ボウシュウボラは美味しい?

毒の危険性ばかりを強調してしまいましたが、実はボウシュウボラ、味に関しては非常に高く評価されている魚介類でもあります。
身(足の部分)は非常に肉厚で、弾力のあるコリコリとした食感を楽しむことができ、サザエやアワビにも劣らない磯の香りと、噛むほどに出てくる強い甘みが特徴です。
  • 代表的な料理
    • 刺身: 鮮度が良いものは刺身で。薄造りにすると独特の歯ごたえが際立ちます。
    • エスカルゴ風バター焼き: 洋風に調理しても身が硬くなりすぎず、旨味が引き立ちます。
    • 煮付け: 甘辛く煮ると、良い出汁が出て非常に美味です。
市場では「ホラガイ」の名で流通することもありますが、その美味しさを知る料理人や漁師の間では珍重される食材です。
ただし、前述の通り「中腸腺の除去」が完璧になされていることが大前提です。産地では安全に処理されたものが販売されていますが、自分で拾ったものや、処理方法が不明なものを安易に食べるのは控えましょう。

まとめ

ボウシュウボラは、千葉県以南の岩礁域に生息する大型の美しい巻貝です。肉厚な身は非常に美味で、刺身や煮付けなどで楽しまれる高級食材としての一面を持っています。
しかしその一方で、餌となるヒトデから蓄積された強力なフグ毒「テトロドトキシン」を内臓(中腸腺)に保持している危険な生物でもあります。
毒は熱に強く、誤って内臓を摂取すると、しびれや運動麻痺、最悪の場合には呼吸停止による死を招く恐れがあります。
食中毒を防ぐためには、内臓を完全に除去すること、そして知識のない素人調理は絶対に行わないことが重要です。美味しい貝ですが、猛毒を持っている可能性があるということを忘れずに、安全に海の恵みを楽しみたいですね。

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