ウルシとは?
ウルシはウルシ科ウルシ属の高さ10m以上に成長する落葉性の広葉樹です。
6月頃に黄緑色の花を咲かせ、10月頃には多数の果実をつけながら赤く紅葉する日本でも身近な植物です。
漆を採取するために日本でも広く栽培されてきましたが、直接触ってしまうとかぶれてしまう「ウルシオール」などのアレルギー性物質が含まれているので、取り扱い注意な植物でもあります。
中国から持ち込まれたという説もありますが、縄文時代の遺跡から見つかったり、福井県で出土した木片が1万2600年前のウルシであることが分かったりしたため、日本にも元から自生していたという説もあります。
栽培されている意外にも野生化してしまったウルシもあるため、どんな植物か知っておかないと痛い目に合ってしまうかもしれないので、ウルシの怖さと見分け方について紹介していきます。
分布・生息地
中国や朝鮮、日本で広く栽培されてきた歴史があるため、日本には北海道から九州まで広く分布しています。現在、漆の採取が多く行われているのは岩手県や茨城県など一部に限られていますが、野生化したウルシが山林に生えていることは全国で見られます。
以下のような記載があることなどから、渓谷沿いなど砂礫土壌となっている湿潤な環境で栽培されてきたため、この付近には見られやすい傾向があります。
「水が停滞しない砂礫壌土で、秩父古生層のような石灰質分を含み、小石混じりの壌土が最も適当」(小野・伊藤1975; 伊藤 1979)
ウルシの見分け方
ウルシにはかぶれの原因となる成分が含まれていますが、ウルシの仲間にもアレルギー物質が含まれているので有害でない植物としっかりと見分けて近づかないようにする必要があります。
アレルギー性物質を含むウルシの仲間の代表例をいくつか紹介していきます。
ハゼノキ
ヤマハゼ
ヤマウルシ
ヌルデ
ツタウルシ
ツタウルシ以外の共通点として葉の付き方が「羽状複葉(ウジョウフクヨウ)」と呼ばれる形をしていることが挙げられます。これは鳥の羽のように葉軸の左右に複数の葉がつく形になっています。
また、葉の付き方が対生ではなく互生となっていることも見分けるポイントの一つです。ウルシの仲間は一見対生に見えることも多いですがしっかり見ると互生となっています。特に葉の先端ではなく幹に近い方を見るとわかりやすいかもしれません。
また葉の縁がギザギザになっている(鋸歯がある)かどうかも細かく種類を見分けるポイントの一つとなります。
羽状複葉
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対生
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アオダモ、トネリコ、ヤチダモ、キハダ、ゴンズイ、ニワトコ等 | |
互生
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鋸歯あり
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ウルシ、ヌルデ、オニグルミ、サワグルミ、ナナカマド、カラスザンショウ、ニワウルシ等 | |
鋸歯なし
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ハゼノキ、ヤマハゼ、ヤマウルシ、イヌエンジュ、フジキ、ムクロジ等 |
参考:http://www.shizen-taiken.com/mhayashi/20030601.html
ツタウルシは名前の通りツル性の植物で葉は3枚の葉が出る「3出複葉」となっているので、他のウルシの仲間とは形状が異なります。無害な樹木に絡みついていることもあるので特に注意が必要なウルシの仲間です。
ウルシの有毒成分
ウルシにはウルシオールというアレルギー性皮膚炎を起こす物質が含まれています。語源はもちろん日本の漆です。
ウルシオールはウルシ科の多くの植物が持っている有毒成分で、ウルシ科に属するカシューナッツの殻や、マンゴーの果実の皮にも含まれている成分です。ちなみに、マンゴーにはマンゴールというアレルギー性物質も含まれています。
ウルシオールによりかぶれるかどうかは体質によることが多く、触れてもかぶれない人もいれば、ウルシの近くを通るだけで触らなくてもアレルギー症状が現れる人もいます。
ウルシかぶれは、赤くむくんで激しいかゆみを引き起こし、時には水泡も現れます。激しいかゆみにより掻いてしまうとさらにアレルギー反応が起こりさらにかゆい部分が広がってしまいます。
ウルシの持っている有毒成分の怖いところは、ウルシを燃やしてしまうとウルシオールなどの成分が気化して、それを吸い込むことで気道や肺などがアレルギー反応を起こして呼吸困難などの症状を発症してしまいます。ウルシが生えている場所での山火事は非常に危険です。
BBQやキャンプなどでウルシの枝を燃やす機会はないと思いますが、なんの枝か判断できない場合は使わないようにするなど注意が必要です。
ウルシにはウルシオールのほかに、ラッコールやチチオールなどのアレルギー性物質も含まれています。
もしもかぶれたら?
もしもウルシに接触してしまったらすぐに石鹸を使って洗いましょう。また、掻いてしまうと症状が悪化するので掻かないようにし、水泡が出来た場合はつぶさないようにましょう。
抗ヒスタミン薬(一般的なステロイド外用薬(ムヒやキンカンなど))を塗ることで治癒を早めることが出来るとされています。
氷などで冷やすとかゆみを抑えることが出来るので、掻かないようにするために冷やすことは効果的です。
症状が酷い場合や、なかなか治らない場合は病院にいき診察してもらうようにしましょう。
ウルシの有効活用
漆塗り
ウルシオールは粘性の強い黄色っぽい色をした液体ですが化学反応を起こすことで固まり、熱や湿気だけでなく、酸やアルカリ、アルコール、油に強く、また腐敗防止や防虫作用もあるため食器や家具、楽器などに漆を塗りコーティングされてきました。
紫外線や極度の乾燥には弱いため注意が必要です。
接着剤
縄文時代から接着剤として使われていたことが分かっています。江戸時代でも磁器を小麦粉と漆を混ぜたもので接着されている例があります。
木蝋(生蝋)
漆の果実を蒸して圧搾することで蝋を抽出することができ、和ろうそくとして昔は使われていました。また、ろうそくとして以外にも、艶出しや膏薬など様々な分野で活用されており、第二次世界大戦以前は輸出品としても重要視されていました。
まとめ
ウルシは日本全国で広く栽培されていた植物で、ウルシオールなどウルシかぶれの原因となるアレルギー性物質が含まれています。
ウルシだけでなく、ウルシの仲間のハゼノキ、ヤマウルシ、ヤマハゼ、ヌルデ、ツタウルシはどれもかぶれる可能性があるため、触ったり近づかないように注意する必要があります。
かぶれは非常に強いかゆみを生じるため、辛い症状に見舞われますが、一方で漆塗りや接着剤、ろうそくなどと昔から様々な用途で活用されています。
現在は岩手県や茨城県など一部の地域でしか漆(ウルシの樹液)は採取されていませんが、過去に栽培され野生化している個体も多いため登山やハイキングなど山林入るときには注意しましょう。
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