ヤマカガシとは
ヤマカガシ(Rhabdophis tigrinus)はヤマカガシ属に属する日本固有種のヘビで、日本に生息する主な陸上の有毒ヘビ3種のうちの1種です。他の2種はニホンマムシとハブ類です。
全長は60~120cmほどの大きさで、40~65cm程度の大きさになるマムシよりも長くなります。マムシの毒のほうが強いと思っている人もいると思いますが、実は毒性の強さはマムシよりもヤマカガシのほうが強いのでもしも噛まれてしまうと非常に危険です。
体色や模様の特徴が地域によって大きく異なっていることも多く、ヤマカガシだと判別しにくいこともあります。関東地方は側面に赤と黒の斑紋が交互に入るためわかりやすいですが、関西地方はこの斑紋が不明瞭で、近畿地方や中毒地方では青型や黒型など他のヘビと見分けがつきにくい個体も多いので注意が必要です。
性格はおとなしい個体がほとんどで人を見つけても積極的に攻撃してくるようなことは非常に少なく、基本的には逃げてしまうことや噛まれても毒が注入されないことがあるから、マムシのほうが危険視されていることも多いです。ただし、超攻撃的な個体もいるので注意しましょう。
主にカエルを食べますが、イモリやカナヘビ、ドジョウなども食べます。また、ある理由によりヒキガエルを積極的に捕食します。
ちなみに、ヤマカガシの由来は山でよく見られたことから「山のヘビ」を意味するヤマカガシと名付けられています。古語でカガシはヘビのことを指します。
分布・生息地
北海道を除く九州以北に全国的に広く分布しています。逆に分布していないのは南西諸島、小笠原諸島、北海道くらいです。
個体数はマムシよりも多いとされていて、これは日本の農業の発達(主に水田の発達)によりヒキガエルの個体数が増えたことでヤマカガシの個体数も増えていったためと考えられています。
カエルを主に捕食する特徴があることから、水辺を好み泳ぐこともできるため用水路や川沿いで見かけることが多いです。ヒキガエルは水辺から離れたところでも生活できるため、ヤマカガシも山間部になどでいることもあります。
ヤマカガシ属は30種が分類されていて、日本固有種以外のヤマカガシの仲間は東南アジア、インドなどに分布しています。
ヤマカガシの毒
ヤマカガシはヘビの中でも非常に珍しく2種類の毒を持っています。1つはヤマカガシが自分自身でつくる毒、もう一つは獲物が持っている毒を自分の体内にため込んで使う毒です。
昔は無毒なヘビと考えられていましたが、実は2種類の毒を使って身を守ったり獲物を確実に仕留められるように活用しています。
ヤマカガシがつくる毒
ヤマカガシのつくる毒は上顎の奥歯にある2mmほどの長さの毒牙から注入します。奥歯にあるためしっかりと噛まれなければ毒を注入されることはありません。しかも、毒液を押し出すための筋肉がないので一瞬噛まれただけでは毒を注入されないこともあります。
ちなみに、マムシの毒牙は4mm程度、ハブの毒牙は1.5~2.5cm程度で前歯に毒牙があるためヤマカガシより刺されやすいので危険です。
毒はハブやマムシよりもヤマカガシのほうが強く、マウスに対する致死量(LD50)は静脈注射で5.3µg(ニホンマムシ19.5~23.7µg、ハブ沖縄島個体34.8µg奄美大島個体47.8µgなど)という試験結果も得られています。
もし刺されてしまっても、マムシやハブのように噛まれた直後に激痛などの症状が現れないため、すぐに病院に行かないことも人も多いようですが、毒を注入された場合はすぐに病院に行かないと命に関わることがあります。また、頭痛などの症状が現れた場合は重症化しやすいことが分かっています。
ヤマカガシの毒の成分はトロンビンアクチベーターが主で、この毒には強い血液凝固作用があるので毒液が注入されるとすぐに体内の血液が固まり小さな血栓がたくさんできます。これにより命に関わる2つのことが身体の中で起き始めます。
血が止まらなくなる
人は怪我をしても時間が経てば血が固まって血が止まりますが、これは血液中にある成分が血を固まらせるためです。しかし、ヤマカガシの毒によりこの血を固める成分が大量に消費されてしまうため全身の止血作用がなくなってしまいます。
全身から出血を起こす
最初に小さな血栓ができて体中に流れてしまいますが、その血栓を溶かすため体の作用が働き始めます。いい効果だと思うかもしれませんが、この効果は自分自身の血管も傷つけてしまうため、毛細血管の多い鼻の粘膜、歯茎、消化器官、肺から出血を起こし、さらには皮下出血を引き起こします。
全身の止血作用がなくなることと合わせて致命的な症状が現れることがあります。これらの症状は噛まれてから数時間後や1日程度経過してから起きる場合もあるため、病院に行くのが遅くなってしまう人もいるため注意しましょう。
他の生き物から得る毒
ヤマカガシはカエルを主食としていますが、ヒキガエルも好んで捕食します。ヒキガエルはブフォトキシンという猛毒をイボや耳腺に蓄えていますが、ヤマカガシはその毒を頸部にある毒腺にため込むことが出来ます。
過去の実験で、ヒキガエルなどの毒を持っている生き物を獲物として食べていないヤマカガシにはこの毒が含まれていないことが確認されています。
頸部を触ってしまうと、この毒が飛び散るため安易に触るのは危険です。もしも目に入ってしまうと、痛み、充血、結膜炎など様々な症状が現れるので、すぐに水で洗い流して病院に行きましょう。
また、中国に生息しているイツウロコヤマカガシはヒキガエルではなく、ホタルの幼虫から毒を摂取していることが最近になって確認されました。ヤマカガシから見れば大した栄養にならないホタルの幼虫を積極的に捕食しているのは毒を得る目的と考えられています。
もしも噛まれたら?
記録にあるだけでも過去40年で30件以上の咬傷事故が発生しているため、自分は大丈夫だと思い込まないことがまずは大事です。
そのうえでもしも噛まれた場合は噛まれた場所よりも心臓に近い部分を縛り、水で洗い流しながら毒を絞り出します。口での吸引などは避けて、吸引器があればそちらを使うようにしましょう。
ヤマカガシの場合はかまれても毒が注入されないこともありますが、万が一に備えてすぐに病院に行くことが大事です。
まとめ
ヤマカガシは毒ヘビの中でも非常に珍しく2種類の毒をもつ毒ヘビです。日本固有種で全国各地に分布しているお馴染みのヘビで、大きさも毒性もマムシよりも大きく強く、個体数も多いとされているのでおとなしい性格ですが注意が必要です。
自分でつくる強力な毒のほかにヒキガエルなど他の生き物が持っている毒を体内に溜めて身を守るために活用しています。そのため、天敵の少ないヒキガエルを積極的に捕食する数少ない捕食者の一種です。
毒牙の位置的に毒が注入される可能性は少なめですが、もしも噛まれてしまうと死に至る可能性もあり実際に事例もあるので注意しましょう。
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