日本でも身近にいる暗殺者!?暖かい海に潜む猛毒を持った貝 イモガイ

水中の生き物
Photograph by Richard Ling

イモガイとは?

色々なイモガイ

Photograph by Pet

イモガイはイモガイ亜科に属する貝類の総称です。身が貝殻にしっかりと隠れる種類も多いことから「ミナシガイ(身無貝)」とも呼ばれています。

大きさは種類にもよりますが、小さい種類は数cm、大きい種類では20cmを超えるサイズにもなります。

サトイモのような形と派手で綺麗な模様を持つ種類が多いという特徴があります。その綺麗な見た目から貝殻集めをしている人にも人気の貝でアクセサリとして楽しまれていたりします。

世界に500種以上、日本にも160種以上が生息していて、主食の違いから小魚を食べる魚食性、ゴカイなどを食べる虫食性、貝を食べる貝食性に分けられています。イモガイの動きは遅いので獲物となる小魚などを食べるのは難しいと思うかもしれませんが、イモガイは毒を持っていて歯舌という毒針を獲物に刺して攻撃します。

この毒は非常に強力なので一撃でほとんどの相手を動けなくさせることができるほど強力です。身を守るために歯舌で攻撃することがあり、毒は人に対しても命に関わるほど影響を与えることも多いのでむやみに生きてるイモガイの近づくのは非常に危険です。

分布・生息地

黒潮

寒流と暖流

世界中の温かい地域と暖流域に生息していて、日本にも幅広く分布しています。寒い地域ではほとんど見ることが出来ないので安心ですが、日本海では能登半島以南、太平洋側では房総半島以南には多く分布していてよく確認されています。

中でも暖流である黒潮に接する千葉県、和歌山県、高知県、鹿児島県でよく見られますが、沖縄県では格段に種類が増えて110種以上いるとされています。

干潮で海面が低い時でも常に海水に浸かってる場所の砂地やサンゴ礁、岩場に潜んでいます。そのため、干潟や波打ち際、砂浜にはあまりいませんが、波に流されている場合もあるのでイモガイの特徴を持つ貝には近づかないようにしましょう。

スノーケリングやダイビングなど少し深くなっている場所で遊ぶ場合には特に注意する必要があります。

日本にいる特に危険なイモガイ3種

日本には160種以上いるとされていますが、人に対しても命を脅かすような危険なイモガイを3種紹介していきます。

アンボイナガイ

アンボイナガイ

Photograph by Kai Squires

アンボイナガイは南西諸島を中心に生息していて日本で最も犠牲者を出しているイモガイです。イモガイの中でも特に強い毒を持っているので、「最も有毒な貝」としてギネスブックにも掲載されたことがあります。

イモガイの中でも大型種で10~13cm程度と手のひらサイズで、仕留めた小魚を丸呑みすることができる大きさです。

1996年の調査報告では沖縄や鹿児島で23人がアンボイナガイに刺されて、8人が命を落としてしまったと報告されています。沖縄では毒ヘビのハブにちなんで「ハブガイ」、浜の半ばで力尽きることから「ハマナカー」という名前でも呼ばれています。昔から身近な存在であることが伺えます。

歯舌

引用:https://ryukyushimpo.jp/style/study/entry-541556.html

夜行性のため日中は岩場の陰に隠れていてあまり会うことは多くありませんが、大きいイモガイには近づかないようにしましょう。

ちなみに、身には毒がないため他のイモガイと同様に食べることが出来ます。ただし、生きてる個体を扱うのは非常に危険ですし、あまり美味しくないと言われています。

ツボイモ

ツボイモ

Photograph by Frédéric Ducarme

ツボイモは、インド洋や太平洋の暖かい地域を中心に、日本の南西諸島でも確認されてるイモガイです。

この種もアンボイナガイと同様に過去にギネスブックに掲載されたことがあります。

ツボイモもキレイな模様の貝殻で比較的浅瀬にいるのでもしも見つけても近づかないようにしましょう。

アンボイナガイと同じように返しのある歯舌(毒針)を持っているため、一度刺さると外れにくく獲物にしっかりと毒を注入することができます。

タガヤサンミナシ

タガヤサンミナシ

タガヤサンミナシ

タガヤサンミナシは沖縄県で死亡例もある危険な貝で、アンボイナガイと並ぶほど強力な毒を持っているだけでなく毒針を12連発することが出来ると言われています。

名前の由来は家具などにも使われているマメ科の「鉄刀木(たがやさん)」に由来していると言われています。ただし、鉄刀木に似ているわけではなく、貝殻の美しさに鉄刀木の美しさをなぞらえて名付けられたと言われています。また、身が貝殻に隠れることから身無(みなし)を合わせて鉄刀木身無(たがやさんみなし)と呼ばれています。

イモガイの毒

イモガイ

イモガイの毒は何百もの種類が混ざっていているので、イモガイの種類によって有毒成分の種類や比率が変わります。そのため毒性の強いイモガイもいれば弱いイモガイもいるので、上で紹介した特に強い毒を持ってる3種類のイモガイには注意しましょう。

イモガイの持ってる毒の主な有毒成分はコノトキシンという成分で、神経毒に分類される毒です。イモガイは獲物を捕食する目的以外に、身を守るために毒針を使って攻撃するので無暗に触ると刺されてしまいます。もしも毒が注入されると、視力と血圧の低下、麻痺症状などが現れ、症状が重い場合には呼吸麻痺により死に至ります。

イモガイの持つ毒はフグ毒として有名なテトロドトキシンと同じように血清がないため、刺されないように細心の注意を払う必要があります。

致死量

マウスに対する致死量はフグ毒として有名なテトロドトキシンとほぼ同じで、青酸カリと比べると約1,000倍の強さを持つほどの猛毒です。

毒性の強いアンボイナガイの致死量は成人に対して1~3µg/kgと推定されています。中には30人分の致死量に相当する量の毒を持っている個体もいることもあります。マウスに対するω-コノトキシンのLD50は0.013mg/kg(テトロドトキシンは0.01mg/kg)とされています。

過去の事故事例では成人よりも特に子供の死亡例が多いため注意しましょう。

用語解説
LD50(50%致死量、半致死量):Lethal Dose 50
ある一定の条件で動物にある物質(成分)を投与した場合に、動物の半数を死亡させる物質(成分)の量を示しています。LD50を使うことでその物質(成分)の毒性を比較することができます。一般的にはLD50 1500mg/kg以上の物質(成分)が安全とみなされています。

刺された時の応急処置

アンボイナガイ

Photograph by Josh Cassidy_KQED

刺された時痛みはあまりないと言われていますが、もしも刺されたことに気が付いたらすぐに患部を確認しましょう。もしも歯舌が刺さってたらすぐに抜いて、すぐに吸引器や口で毒を吸い出しましょう。

また、毒が体に回るのを遅らせるために刺された場所よりも心臓に近い場所を縛っておき、周りの人にすぐに助けを求めて病院に行くようにしましょう。

毒は即効性があり、自覚症状が現れたころにはすでに岸まで戻れないことがあるなど、非常に危険な毒のため刺された時の対処をきちんと行うことが重要です。血清はなくとも病院に行けば対症療法を行うことはできるので病院にはすぐに行くようにしましょう。

イモガイによる事故事例

綺麗な海

過去にアンボイナガイに刺されてしまった事例があります。

この男性は沖縄の海岸でスノーケリングをしながら食用となる貝を取って、チョウセンサザエなどの貝を網袋に入れていました。

そんな中、食用となるマガキガイの大きな個体と見られる貝を見つけたので網袋に入れて持ち歩いていましたが、実はこの貝は毒性の強いアンボイナガイだったのです。

10分ほど持ち歩ていると、ふと左手が蚊に刺されたような感覚に襲われたので左手を見ると1cm程度の針が少し刺さっていることに気が付きました。イモガイに対する知識はあまりありませんでしたが、針を抜いて念のため3、4回強く口で吸引しておきました。

その後も特に体調の異常が見られなかったのでスノーケリングを続けていましたが、刺されてから約30分後、岸に帰ろうとしたときに眩暈、のどの渇き、だるさの症状が現れて、ついに自分自身で岸まで戻れないくらいになってしまいました。

何とか周りの人に助けを求めて病院に行けたため一命をとりとめましたが、もしも周りに誰もいなかったら岸まで戻れず力尽きてしまったと言われています。

その他にも潮干狩りをしているときや貝殻集めをしているとき、ダイビングや素潜り、漁などの時に刺されてしまった事例があるので注意しましょう。

医療分野への応用

医療への応用

イモガイの持ってる毒の中には医療への応用されてるも毒もあります。ヤキイモの持つ毒にはモルヒネの1,000倍以上の鎮痛作用を示す成分が含まれていて、この成分からつくられた鎮痛剤「ジコノタイド」は劇的な効果があることも確認されています。

それから、ビクトリアジョオウイモの持つ成分の中に神経痛を抑えるとともに、神経細胞の回復速度が上がる効果が確認されてます。

他にもアルツハイマー病やパーキンソン病、てんかんの治療にも使える可能性のある成分が見つかってるため、イモガイの毒は将来医療に役立つ成分の宝庫と言えるかもしれません。

まとめ

イモガイは日本でもよく見られる毒を使って攻撃する貝です。国内外で死亡事故も起きているため、イモガイの特徴を持つ貝には近づかず、特に南西諸島の海で遊ぶ際には注意するようにしましょう。

持っている毒はテトロドトキシンに次ぐ強さを持っており、血清もないので刺された直後の対応とすぐに病院に行くことが重要になります。

恐ろしい毒を持っているイモガイですが、その毒から様々な病気の治療薬が開発されており、今後の更なる研究が期待されています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました