貝毒とは?
貝毒は有毒成分を生成するプランクトンが生成し、二枚貝に取り込まれて濃縮される毒の総称で、もしも食べてしまうと様々な中毒症状が現れます。
中にはフグ毒「テトロドトキシン」と同等の毒性を持つほど強力な猛毒もあるので、もしも食べてしまうと少量でも死に至る危険性があります。
貝毒は熱にかなり強いため一般的な調理方法では分解されません。そのため、毒性試験を行い国や自治体が定めている基準値を超えていないか確認し、もしも超えた場合には出荷停止措置を行っているので、現在は市場に出回っている二枚貝での貝毒による中毒を心配する必要はありません。
なぜ二枚貝が危険なのか
二枚貝は水を吸っては吐いてを繰り返して水中にいるプランクトンを食べています。牡蠣については1時間で約20Lもの海水を吸っては吐いています。
その水の中に有毒成分やノロウイルス、腸炎ビブリオなどがあると牡蠣の中に取り込まれてしまい、人が食べたときに中毒症状である嘔吐や腹痛、下痢などの症状が現れます。
牡蠣の生食の危険性
ちなみに、牡蠣にあたってしまう主な原因はノロウイルスです。ノロウイルスは人の腸でしか繁殖できないという特徴があります。下水処理場で処理されてもノロウイルスなど一部の生き物は生き残ってしまいそのまま川に排水されて海に流れていきます。
海水中でも繁殖力は数週間残るのできちんと加熱処理せずに食べてしまうと感染してしまう可能性があるというわけです。
ノロウイルスは85~90℃で90秒以上加熱することで殺菌することができるので、きちんと加熱することが重要です。
豆知識:加熱用と生食用の牡蠣の違い
加熱用と生食用の違いは新鮮さなどで決まっているわけではなく、取れた場所の海域によって決まります。
生食用
- 生息:県などの指定海域(主に沖合に生息)
- 身:ウイルスなどが入る可能性が低い分栄養が少ないため細い
- 危険性:ウイルスなどが入っている可能性は低い
加熱用
- 生息:県などの指定海域以外(主に沿岸部に生息)
- 身:栄養豊富なためプリプリしていてうまみも強い
- 危険性:ウイルスが身に入っている可能性があるため加熱必須
貝毒の種類
貝毒には症状によって「麻痺性貝毒」「下痢性貝毒」「神経性貝毒」「記憶喪失性貝毒」の4種類に分けられています。それぞれどのような特徴があるか紹介していきます。
麻痺性貝毒
麻痺性貝毒を摂取してしまうと30分程度で舌、唇、顔面、手足のしびれ、運動失調などの症状が現れ、重症の場合には、麻痺症状が全身に広がって最終的には1日以内に呼吸麻痺により死に至る危険性があります。
12時間を越えれば回復に向かうので、すぐに病院に行き対症療法でしのぐことが出来れば助かる可能性があがりあます。
麻痺性貝毒と呼ばれる有毒成分はたくさんありますが、いずれも上記の麻痺症状が現れるという共通点があります。日本でもよく検出される貝毒で定期的に基準値を超えて出荷が停止されることもしばしばあります。
各自治体ではさらに厳しい基準を設けて自主規制を行っていることも非常に多く、近年は特に自主規制件数が多くなっている傾向にあります。
毒性の強さはマウスユニット(MU)で表します。人の致死量は3,000~20,000MUとされていて、過去に検出された例では1gあたり170MUが検出されたこともあるので、もしこの貝を20g程度(貝汁一杯でも十分摂取し得る)食べてしまうと死の危険があるくらいの強さです。
麻痺性貝毒の中でも特に毒性の強い成分にサキシトキシンはテトロドトキシンに匹敵する強さで、その致死量はなんと1~2mg程度と推定されています。
それから、以前紹介したけどスベスベマンジュウガニやウモレオウギガニなども麻痺性貝毒を保有することもあります。詳しくはこちらで紹介しています。
生産するプランクトン
渦鞭毛藻のアレキサンドリウム属、ギムノディニウム属、ピロディニウム属
淡水産藍藻のアナベナ属、アファニゾメノン属、シリンドロスペルモプシス属、リングビア属
主な成分
サキシトキシン、ネオサキシトキシン、ゴニオトキシン群など
規制値
4マウスユニット/g 以下
各自治体でさらに厳しい基準を設けていることもあります。
下痢性貝毒
下痢性貝毒は ジノフィシス属やプロロセントラム属が生成するオカダ酸やジノフィシストキシン群などのことで、もしも食べてしまうと30分~4時間以内に腹痛、下痢、嘔吐などの症状が現れます。
命を落としてしまったという事例はなく、3日以内には回復することがほとんどですが、
30µg程度(規制値の0.16mg/kg換算で約200g)と少ない量でも症状が現れてしてしまうという特徴があります。
1980年代前半までは国内でも市場流通品での中毒事例が確認されていましたが、その後規制値が設けられ、毒性試験を行ってから出荷しているので現在は市販品の二枚貝での中毒事例は報告されていません。
日本では麻痺性貝毒と下痢性貝毒を生産するプランクトンが確認されているため、この2種類の貝毒についてはきちんと基準が設けられています。
生産するプランクトン
ジノフィシス属やプロロセントラム属
主な成分
オカダ酸、ジノフィシストキシン群など
規制値
0.16mg オカダ酸当量/kg 以下
各自治体でさらに厳しい基準を設けていることもあります。
神経性貝毒
神経性貝毒はアメリカやニュージーランドで時々発生が確認されている貝毒の一種で、もしも食べてしまうと1~3時間程度で口内のヒリヒリ感、運動失調、温度感覚異常などの神経障害が現れます。場合によっては吐き気や腹痛などの胃腸障害も現れることがあるようです。
日本では神経性貝毒を生成するプランクトンは確認されていないため基準値は設けられていませんが、アメリカなど確認されている国や地域では基準が設けられています。
また、海外でも死亡例は確認されていないため、麻痺性貝毒などと比べると毒力は低いですが、気を付けなければ貝毒の一つです。
生産するプランクトン
有毒渦鞭毛藻のカレニア・ブレビス
主な成分
ブレベトキシン
規制値
- 日本では確認されていないため規制値なし
- アメリカ合衆国では、貝100 g当たり20 MU(80 μgPbTx-2/100 g)を超えるものは食用不適
記憶喪失性貝毒
記憶喪失性貝毒の有毒成分はドウモイ酸で、もしも食べてしまうと数時間以内に嘔吐、腹痛、下痢、頭痛、などの症状が現れます。症状が重い場合には記憶喪失、混乱、平衡感覚の喪失、痙攣などが現れて最悪の場合には昏睡に陥り死に至る危険性があります。
実際には1987年にカナダでは107名の集団食中毒が発生し、3名が命を落としてしまったという事故が起きています。
日本でも二枚貝から極少量が検出されたことはありますが、今のところは食中毒を起こすレベルの濃度は検出されていないため、規制値は設けられていません。
ちなみに、二枚貝以外にも甲殻類ダンジネスクラブ(ホクヨウイチョウガニ)、スベスベマンジュウガニ、魚類アンチョビーなどから検出されたことがあり、さらにこれらを摂食した水鳥やカリフォルニアアシカにも記憶喪失性貝毒の蓄積がみられたと報告されています。
生産するプランクトン
珪藻シュードニッチャ属、ニッチャ属、アンフォラ属
主な成分
ドウモイ酸
規制値
- 日本では規制値なし
- 外国の規制値:20ppm
あたらない牡蠣が誕生?
2023年に世界初となる陸上でのカキの完全養殖に日本の企業が成功しました。水深200mからくみ上げたほぼ無菌の海洋深層水を使った方法のため、ウイルスや貝毒などの心配が一切なく安全に生食することが出来ます。この超安全な牡蠣は「エイスシーオイスター2.0」と名付けられています。
海洋深層水にはウイルスなどの危険がない代わりに餌となるプランクトンもほぼいないため、牡蠣用の安全な餌を安定して供給することが課題としてあったため、うまくいっていませんでした。そこで海洋深層水の循環システムだけでなく、微細藻類の大量安定培養技術も併せて開発できたことで陸上での完全養殖に成功しました。
これからは大量生産体制を整えて市場に広げていくことを計画中のようです。
有毒プランクトンを食べる新種のプランクトンが日本で発見!?
2022年に大阪湾で「アメーボフリア」の新種が発見されました。
この新種は麻痺性貝毒を生産するプランクトンに寄生して2~3日で消滅させることがわかったため、今後有毒なプランクトンの発生を抑えて麻痺性貝毒を含まない二枚貝の育成に役立てるという研究が進められています。
まとめ
貝毒は有毒プランクトンを食べた二枚貝に蓄積する有毒成分の総称で、中毒症状により4種類に分けられています。いずれも熱にかなり強く、一般的な調理方法では分解できないため、市場に出回る前に毒性検査を行って基準値以下であることが確認されています。
そのため、牡蠣の生食であたる原因は主にノロウイルスです。そのため、きちんと加熱すればあたる危険性は非常に低いです。
現在は貝毒による中毒事例は報告されておらず、毒性試験もきちんと行われているため心配する必要はありませんが、潮干狩りなど二枚貝を自分で取って食べる際にはきちんと加熱して食べるようにしましょう。
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