カビとは?
カビは真菌類の中でも子実体(キノコの食べる部分)を形成せず、菌糸からなる体を持ち、増えると目に見えるようになる菌全体の俗称です。
起源や種類が異なっていても同じような特徴を持っている菌全体を指すので、例えば真菌は「鞭毛菌類」「接合菌類」「子嚢菌類」「担子菌類」「不完全菌類」に分かれていますが、分類に関わらずカビと呼ばれる菌がいます。
真菌の中にはキノコも含まれますし、パンの発酵を促す酵母菌など人にとって有益な菌も含まれています。
真菌 鞭毛菌類 ミズカビなど 接合菌類 ケカビ、クモノスカビなど 子嚢菌類 ユウロチウム、ハンゼヌラなど 担子菌類 シイタケなどのキノコ 不完全菌類 食品を汚染するカビの多くが含まれる
カビと聞くと食べ物やお風呂場、壁紙などカビさせてしまうので悪い印象が強いと思いますが、他の微生物と同じように様々なものを分解して土に還すため、環境を整えるのに役立っています。
また、カビと呼ばれる菌は約10万種いるとされていて、食品や医療などに利用されてるカビもあれば、自然界最強の発がん性物質を出す有害なカビも存在します。
カビの成長過程
カビの胞子は空気中に漂っていてこれが食べ物や壁などに付着し、温度や湿度など成長できる環境が整うとそこで発芽し根を張るように菌糸を伸ばして成長します。
さらに成長すると胞子を飛ばすようになり、さらに数を増やしていきます。
カビの胞子を吸い込むことでアレルギー症状の鼻水やくしゃみ、目のかゆみなどを引き起こします。また、カビの中には人の皮膚や粘膜で成長し感染症を引き起こす種類もいるのでカビは放置しないようにすることが大事です。
代表的なカビ毒
カビ毒は別名マイコトキシンとも呼ばれ、300種類以上知られています。今回は日本で確認されているカビ毒の中で特に毒性が強い3種類を中心に紹介していきます。
アフラトキシン
アフラトキシンは自然界最強の発がん性物質と知られているカビ毒で、アスペルギルス属の一部のカビが生産します。アフラトキシンは熱に強く加熱調理しても分解されないためアフラトキシンで汚染されてしまった食べ物は絶対に食べてはいけません。
アフラトキシンにはB1、B2、G1、G2など10種類ほどが確認されていますが、その中でもアフラトキシンB1の毒性が最も強く、自然界で最も強い発がん性を示す物質とされています。
動物実験ではマウスに15μg/kgのアフラトキシンB1を含んだエサを与えたところ、12匹中12匹が肝細胞癌の発生が認められました。このように強力な発がん性を示すことから国際がん研究機関(IARC)ではクラス1に分類されています。
日本では食品衛生法で総アフラトキシン(B1、B2、G1、G2の総和)が10µg/kg(0.01ppm)というかなり厳しい基準値が設けられているので、摂取してしまうする危険性は低いです。また、アフラトキシンB1、B2が含まれた餌を乳牛が食べてしまうと、牛乳の中にアフラトキシンM1、M2という代謝物が含まれてしまいます。M1、M2にも毒性があるため飼料中のアフラトキシンB1、B2にも基準値が設けられており、できる限り入らないように管理されています。
国産の食べ物で基準値を超過した例はかなり少ないですが、海外からの輸入品で基準値を超えた例はたくさんあります。中には、インドやケニアで急性中毒事件が起きていて100名以上が命を落としてしまったという事例もあります。
また、アメリカではトウモロコシが原料のドッグフードにアフラトキシンが含まれていたため、70頭以上が死亡してしまったという事故も発生しています。
生産するカビ
アスペルギルス属
毒性
対象にもよりますが致死量は1mg/kg以下とかなり強い毒性を示します。人が大量に摂取してしまうと急性肝障害で死に至る可能性があり、長期的に少量を摂取し続けると慢性毒性を示すことが分かっています。
確認されている食品
ナッツ類、穀類、乾燥果実、牛乳など
トリコテセン類
トリコテセン類は猛毒キノコ「カエンタケ」にも含まれるような毒性の強い成分で、人や動物だけでなく、無脊椎動物や植物に対しても悪影響を与えることが知られています。
トリコテセン系のカビ毒はいくつもありますが、その中でも「デオキシニバレノール(DON)」「ニバレノール(NIV)」が有名で、2022年に製粉された岩手県産のナンブコムギから基準値を超えるカビ毒が検出されたと2023年11月に発表されましたが、そのカビ毒はトリコテセン系カビ毒のデオキシニバレノールです。
このカビ毒を含む小麦は学校給食やふるさと納税返礼品などに使われてしまい全国各地で健康被害を出してしまいました。
防除や水分管理、検査も不備 ナンブコムギ、「カビ毒」問題(共同通信) - Yahoo!ニュース
岩手県産小麦の一つ、「ナンブコムギ」から基準値を超える「カビ毒」が検出された問題で、JA全農いわては26日、防除や水分管理の不備が原因で発生し、検査も適切に行われずに流通したと発表した。 JA
トリコテセンは熱に強く加熱調理しても分解されず、一度汚染されてしまうと除去することは困難だとされてるため、汚染が確認された食べ物を食用として使うことはできず、廃棄するか別の用途に転用するしかありません。
小麦の赤かび病を引き起こすカビが出す毒のため、赤カビ病に強い小麦の品種改良も研究されています。
生産するカビ
主に赤カビ病を引き起こすフザリウム属のカビ
毒性
もしも摂取してしまうと中毒症状として、腹痛、嘔吐、発熱などが現れ、症状が重い場合には敗血症や潰瘍などにより全身に出血を起こす危険性があります。また、慢性的に摂取してしまった場合は、免疫力の低下や発がん性が指摘されています。
確認されてる食品
穀類や豆類など
オクラトキシン
オクラトキシンは毒性が強いカビ毒です。このカビ毒を出すカビは寒さに強く低温でも増殖することができるため、熱帯や温帯ではもちろんのことヨーロッパやカナダなど寒冷地でも問題になります。
このカビ毒も一度汚染されてしまうと除去することはできないため、廃棄するか食用以外の用途に転用するしかありません。
オクラトキシンA、B、C、TAの4つが知られていて、特にオクラトキシンA の毒性が強いとされています。
生産するカビ
アオカビ属やコウジカビ属など様々なカビ
毒性
対象によるけど1kgあたり1mg以下の致死量を示すこともあります。中毒症状として多尿や尿糖などの腎機能障害などが現れ、発がん性があることが知られています。
確認された食品
穀類、豆類、果実、コーヒー豆、カカオ、食肉加工品、乳製品など
その他
今回紹介した3つ以外にも日本の農産物や食品を汚染する可能性のあるカビはいくつもあります。出荷時にはカビ毒が検出されなかったとしても消費者の管理状況が悪いとカビを発生させてしまいカビ毒が含まれてしまう場合があります。
そのため、私たち一人ひとりがカビを発生させないようにきちんと管理することが大事です。
繁殖しやすい条件
カビを発生させないようにする一番の対策はカビが生える前に食べてしまうことですが、大量にある食べ物を一気に消費することは難しいこともあるため、繁殖しやすい条件と対策を紹介していきます。
温度
例外はありますが、身近にある多くのカビが繁殖する温度は0~40℃程度で、最も繁殖する温度は25~28℃くらいです。そのため、冷蔵保存することで成長を遅らせることができます。
ただし、冷蔵庫でもゆっくりは繁殖してしまうため、カビの繁殖を完全に抑えるためには冷凍庫で保存する必要があります。
酸素
カビの多くは繁殖するのに酸素を必要とする好気性の菌です。そのため、酸素がない環境では繁殖することができなくなるので、空気を抜いて密閉したり、脱酸素剤などで低酸素状態にすることでカビの繁殖を抑えることができます。
酸素の有無は見た目では確認できず、脱酸素剤の効果も発揮されているかはあまりわからないので酸素の状態だけで管理することはできる限り控えましょう。
湿度
カビは広く知られている通り湿度が高くジメジメした環境を好むため、できる限り食品の乾燥状態を維持するというのも非常に重要です。
おせんべいなどで経験ある人も多いと思いますが、空気に触れさせ続けると空気中の水分を吸収して湿気ってしまいカビが繁殖できる状態に近づいてしまいます。もとから乾燥している食品などに対しては乾燥剤などを使って乾燥状態を維持することでカビの繁殖を抑えることができます。
まとめ
カビの胞子見えませんが様々な場所で空気中に漂っています。カビ菌を完全にシャットアウトすることはできないので、どのようにしてカビを繁殖させないようにするかが重要です。
アオカビやコウジカビなど有益なカビもいますが、多くのカビはカビ毒を生産するため注意する必要があります。カビを発生させないようにするために、温度を下げる、酸素をなくす、乾燥状態を保つという3つを覚えておきましょう。
ちなみに、目に見えるカビを取り除いたとしてもカビ毒や菌糸を完全に取り除けているかわからないので、カビが生えた食品は絶対に食べないようにしましょう。
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