オブトサソリ(デスストーカー)とは?
オブトサソリはキョクトウサソリ科(ウシコロシサソリ科)の猛毒を持ったサソリで、デスストーカーやイスラエル・イエロー・スコーピオンとも呼ばれています。
体長は3~8cm程度で平均的な大きさは5.8cm程度です。色鮮やかな黄色い体色が特徴的で、尾が太いという特徴がから「オブトサソリ(尾太蠍)」という名前が付けられています。
非常に攻撃的な性格のため、毒サソリによる被害の75%はこのサソリによる被害だともいわれています。ただし、サソリは見分けるのが難しく似た見た目の別種も多いので実際にはこのサソリが75%の割合ではないかもしれません。
積極的に襲ってきて狙った獲物を逃さないということが英名のデスストーカーの由来となっています。
3000種類ほどいるサソリの中で人の命を奪うほどの毒を持っているサソリは2,30種と言われていますが、オブトサソリもその中に含まれる強力な毒を持っています。
分布・生息地
北アフリカから中東の砂漠や低木の乾燥地帯に生息しています。その範囲は非常に広く、西はアルジェリアやエジプト、アラビア半島など、東はインド西部と中央アジアの広範囲に生息しています。
また、生息している砂漠にはサハラ砂漠、アラビア砂漠、タール砂漠なども含まれています。
毒性
強力な神経毒を持っているサソリで、もしも刺されてしまうと蜂に刺される痛みの100倍と言われるほどの激しい痛みに襲われるとともに、麻痺や言語障害などの症状が現れます。
さらに、場合によってはアナフィラキシーショックを起こす危険性もあるため、オブトサソリの生息地に行くときには注意が必要です。
成分
様々な成分が含まれていますが、その中で主要な成分としては以下がわかっています。
・クロロトキシン(Chlorotoxin)
・カリブドトキシン(Charybdotoxin)
・シラトキシン(Scyllatoxin)
・アジトキシン(Agitoxins)1 型、2 型、3 型
・Lq2
致死量
健康状態の良い成人であれば死に至る危険性は低いですが、子供や高齢者などでは命を落としてしまう可能性もあります。このサソリに刺されたことによる致命的な症状は肺水腫になるようです。
体重70kgの人の致死量は11mg程度(約0.16mg/kg)と考えられていますが、サソリ1匹が1回で出す毒量は約0.25mg程度(数μL)と言われているため1回刺されただけでは命に関わるほどではないことがわかると思います。
有効活用と驚きの値段
脳腫瘍マーカーとしての活用
毒液に含まれる成分の中にクロロトキシンという成分が含まれていますが、このクロロトキシンには脳腫瘍の一種であるグリオーマと特異的に結合することが発見されました。蛍光発光する分子をクロロトキシンに付着させて体内に入れることで1cm以下の脳腫瘍をマークしてくれる「脳腫瘍マーカー」としての活用できることがわかりました。
2015年には手術中にリアルタイムで脳腫瘍の位置を確認できるように臨床試験が開始されています。こうすることで手術時間を短くするだけでなく切除すべきポイントだけを狙うことができるので正常な部分の切除量を最小限に抑えることができます。
糖尿病治療ヘの活用
最近の研究で毒の成分には糖尿病の治療効果があることがわかってきました。まだ研究段階ですが、これから糖尿病治療薬の開発にも貢献することが期待されています。
生き物の持っている毒に含まれている成分の中で、詳しく解析できている成分は極々一部のみのため、今後の研究開発に期待が集まっています。
3.8Lで40億円以上の毒液
このように様々な有効活用が期待されている毒液ですが、サソリ1匹から抽出できる1回当たりの量はたったの数μL程度(1μL=0.001mL)と言われていて、さらには1匹から得られる毒量が回復するまでに2~3週間ほどもかるため3.8Lを集めるにはものすごい手間暇がかかるようです。スタンフォード大学の化学者ゼア(Richard Zare)は1mL採取するのに1万300ドルもの費用がかかると言っているほどです。
多数のサソリを飼育すること、非常に危険な毒を持つサソリから何千何万回も人の手で毒を採取する必要があることから、2020年時点で3.8Lの毒液に対して40億4900万円もの値段が付いたことがあります。
この金額は世界一高価な液体と評価されるほどの金額です。
まとめ
オブトサソリはデスストーカーとも呼ばれる中央アジアを中心に分布している猛毒を持ったサソリです。強力な神経毒を持っており、健康な成人の命を奪うほどではありませんが子供や老人、健康リスクのある人などには致命的な毒を持っています。
もしも刺されてしまうと蜂に刺されるよりも100倍ほどの痛みに襲われるので生息域に行くときは注意しましょう。
持っている毒の成分の一つ、クロロトキシンは脳腫瘍に結合しやすい特性があるため、非常に優秀な脳腫瘍マーカーとして活用されています。
非常に集めるのが大変なため2020年には3.8Lで40億円以上もの値段がついていて、世界一高価な液体と言われています。
コメント