糖尿病治療薬の開発に貢献した猛毒を持つトカゲ アメリカドクトカゲ

正面から見たアメリカドクトカゲ 地上の生き物

アメリカドクトカゲとは?

展示されているアメリカドクトカゲ

アメリカドクトカゲはドクトカゲ科ドクトカゲ属に属する毒を持っているトカゲで、英名はヒラ川に住む怪物の意味する「ヒラモンスター」です。同じ属にメキシコドクトカゲという別の種もおり、このトカゲも毒を持っています。

体長は30cm、最大全長は50~60cmにもなる大きさで、重さは2kg程度になります。見た目が非常に特徴的で、褐色の体表にピンクや橙、黄色などの模様が入っているためすぐに見分けることができます。

肉食性で爬虫類の卵や鳥類の卵やひな、小型の哺乳類などを食べます。比較的おとなしい性格で積極的に嚙みついたりはせず、動きはゆっくりでのしのしと歩きます。ただし、突発的には俊敏に動くこともできます。

また、噛む力が強いので一度噛まれてしまうとなかなか離さないので見つけても近づかないようにしましょう。

薄明薄暮性で明け方や夕暮れ時に最も活発に活動するので、昼間は岩の隙間や地中などで休んでいて見かける機会は少なくなります。ただし、冬や春先など寒い日の晴天時には昼にも活動するので生息域に遊びに行くときは注意しましょう。

分布・生息地

アメリカ南西部、メキシコ北西部に分布しています。以前は日本にも飼育目的で持ち込まれていました、2020年6月以降はペットとして飼育することが禁止されています。

野生でも寿命が20~30年と考えられているので、飼育環境ではもっと長生きする可能性を考えると飼えたとしても非常に覚悟が必要な生き物ですね。

砂漠や荒地、乾燥した森、草原などの地表で生活していますが、高木に登ることも確認されています。

毒性

寝静まっている2匹のアメリカドクトカゲ

以前は毒を持っているトカゲはアメリカドクトカゲとメキシコドクトカゲの2種のみと考えられていましたが、研究が進んだ現在はコモドオオトカゲなど、オオトカゲ科のトカゲにも毒を持っている種が見つかっています。

アメリカドクトカゲの持っている毒は強力な神経毒で、もしも噛まれてしまうと強烈な痛み、むくみ、眩暈、吐き気などの症状が現れ、場合によってはショック症状やアナフィラキシーショックを引き起こす可能性があります。

健康な成人であれば死に至る危険性は少なく、死亡例もほとんど報告されていませんが、飲酒中だったり健康状態が良好でなかった場合には死亡例も報告されています。様々な成分が含まれていますがその中に「Exendin-4」というペプチド(たんぱく質)が含まれています。詳細は後述しますが、多くの人が使っている治療薬が生まれました。

強靭な牙と毒液注入の両立

アメリカドクトカゲの頭蓋骨

アメリカドクトカゲの頭蓋骨
Photograph by MonsterDoc

噛んで毒を注入する生き物と言ったらヘビが最初に思い浮かぶと思います。ヘビは大量の毒を効率よく注入できるように牙の中が空洞になっていて、その中を毒が通ります。毒を注入することには優れますが、代わりに牙の強度は落ちてしまうので長時間噛みついたりすることは苦手で表皮が固いと貫けず折れてしまいます。

一方アメリカドクトカゲは、毒を歯の溝から出すことで歯の強度を保ちつつ傷口から毒を注入する方法を取っています。毒が注入できる量は少なくなりますが、強靭な顎と牙で長時間噛みつくことで毒だけでなく口の中にいる細菌や怪我そのもので相手の体力を奪うことができます。

あまり大物は食べませんが、自営するための手助けになっています。

毒は糖尿病治療薬へ

リンゴと角砂糖と注射器

糖尿病になってしまうと血糖値の上昇を抑える「インスリン」が十分に働かなくなってしまい常に血液中のブドウ糖の濃度が高くなってしまい(血糖値が高くなり)ます。

人間の体にはインスリンのほかに、血糖値が高いときだけインスリンの分泌を促すという優れた効果を持つ「GLP-1」というホルモンがあります。ただし、このGLP-1というホルモンは欠点として体内ですぐに分解(1~2分で半分まで減少)されてしまうので、薬で摂取しても血糖値の上昇を抑える時間が短いです。

そんな中、アメリカドクトカゲの毒から見つかったペプチド「Exendin-4」はGLP-1に形(構造)がよく似ていること、アメリカドクトカゲはお腹いっぱい食べても血糖値がほとんど上がらないことからGLP-1と似た効果があることがわかりました。

そこで研究者は「Exendin-4」の構造をヒントに、GLP-1よりも体内で分解されにくく、長時間血糖値の上昇を抑えてくれる薬の開発に成功しました。

毒をそのまま薬にしているわけではないのでこの薬を飲んでも心配する必要はありません。

まとめ

アメリカドクトカゲはアメリカ南西部、メキシコ北西部に分布している毒をもっているトカゲです。持っている毒は神経毒で、もしも噛まれてしまうと激しい痛みなどの症状が現れますが、死亡例は稀だと報告されています。

持っている成分の「Exendin-4」というGLP-1に似た構造のペプチドが見つかったため、これをヒントに2型糖尿病の治療薬エキセナチドが開発されました。

日本人は遺伝的に糖尿病になりやすいので、1000万人以上の患者がいると推定されています。

 

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