毒キノコによる誤食事故
日本では毎年のように中毒事故がニュースになっており、9月、10月に中毒事故発生件数が多くなっています。
今回は日本で多くの中毒事故を引き起こしてきた毒キノコを12種類、キノコにまつわる迷信を8つ紹介していきます。
年別誤食件数
全国で毎年数十人から多い年で100人を超える誤食事故が発生しています。
誤食の理由のほとんどは毒キノコを食べられるキノコと勘違いしてしまったという理由ですが、中にはもらったり無人販売所で買ったものが実は毒キノコだったという事故も起きています。
最近ではスマホの画像検索機能を使って毒キノコを食べられるキノコと判断してしまったという事故も出てきています。自分自身で判断できない野生のキノコは食べないようにしましょう。
種類別事故件数
日本には5000種類以上ものキノコがあると言われていて、そのうち食べられるキノコは約100種類、毒キノコは約200種類、その他は詳しくわかっていないと言われています。
種類の多い毒キノコですが、中毒事故の約70%以上は3種類のキノコが占めています。
間違いやすい毒キノコ
ツキヨタケ
国内中毒件数No.1で毎年事故の半数近い割合を占め、その患者数は毎年数十人にもなります。ヒダに発光成分があるため夜中に裏をみると光っていることが確認できます。
分布
北海道から鹿児島にかけて国内に広く分布しています。主にブナの倒木や切り株などに群生します。
時期
夏の終わり頃~秋
毒
イルジンSなど
症状
もしも食べてしまうと食後30分~3時間程度で嘔吐や下痢、腹痛などの症状が現れます。中には景色が青白く見えるといった幻覚症状が出ることもあります。
命に関わるような例はほとんどありませんが、適切な処置がされずに脱水症状などによって命を落としてしまった例は少数報告されています。
似ている可食キノコ
シイタケ、ヒラタケ、ムキタケなど
クサウラベニタケ
かさの大きさは3~8cm程度で名前の通り不快な臭いを発します。濡れているときは褐色を帯びた灰色をして粘性もありますが、乾いていると白っぽい灰色になります。
茨城県など一部の地域では本種を「ツキヨタケ」と呼ばれています。幸いどちらも毒キノコなので呼び方の間違いで誤食するなどの影響は少なそうです。
分布
日本各地で見ることができ、ブナやコナラなどの広葉樹がある場所や広葉樹と針葉樹が混生している場所の地面に生えます。
時期
夏~秋
毒
ムスカリン、ムスカリジンなど
症状
食後20分~1時間ほどで嘔吐、腹痛、下痢などの症状が現れます。さらに症状が重い場合には発汗など神経系のムスカリン中毒の症状が現れて最悪の場合には死に至ることもあります。
似ている可食キノコ
ホンシメジ、ウラベニホテイシメジ、ハタケシメジなど
イッポンシメジ
カサは7~12cm程度で淡い灰色や淡い黄土色と地味な見た目をしています。柄は10~20cm程度のため比較的大きくなるキノコです。
クサウラベニタケに似ていることや、未知のキノコにそっくりなキノコも多いと考えられています。また、一部の地域では食べられるウラベニホテイシメジと呼ばれたりしていることから混乱を招いています。
分布
広葉樹林の地面に生えます。
時期
秋
毒
ムスカリジンなど
症状
食後1~6時間ほどで嘔吐、腹痛、下痢などの症状が現れます。
似ている可食キノコ
ホンシメジ、ウラベニホテイシメジ、ハタケシメジなど
テングタケ・イボテングタケ
カサには白っぽいイボがあるという特徴があり、わかりやすい見た目をしています。
似ているキノコはないので知識があれば誤食してしまうリスクは少ないですが、あまり知識のない人だと食べられるキノコと間違って食べてしまうことがあったり、誤って販売してしまうといった事故も起きています。また、画像検索機能により食べられるキノコと誤認してしまい中毒を起こした事例もあります。
分布
アカマツなどが生えている針葉樹林やコナラやクヌギなどが生えている広葉樹林の地面に生え、公園など人の住んでいる地域でも見られます。
時期
夏~秋
毒
イボテン酸、ムッシモール、ムスカリンなど
症状
もしも食べてしまうと数十分以内に嘔吐、腹痛、下痢などの症状が現れて、症状が重い場合には痙攣や幻覚などが起きます。食後2~3時間で症状が最も重くなります。
似ている可食キノコ
なし
ベニテングタケ
かの有名なマリオの食べるキノコのモチーフになっている毒キノコです。カサは真っ赤で白いイボがあるわかりやすい見た目をしていますが、イボが雨などで落ちてしまうと食用のタマゴタケに似るので誤食してしまう例もあります。ベニテングタケは柄の色が真っ白なため比較的簡単に見分けられます。
イボテン酸は有毒でありながら、うま味調味料のグルタミン酸の10倍以上ものうまみ成分であることが知られており、中毒を起こさない程度の少量を食べるキノコ愛好家もいるようです。
分布
白樺やモミ属など寒冷地に生息する樹木と共生しているため、温暖な地域ではあまり見られないが世界中でみられる一般的なキノコ
時期
夏~秋
毒
イボテン酸、ムッシモール、ムスカリンなど
症状
もしも食べてしまうと数十分以内に瞳孔が開く、酒酔いに似た症状が現れ、食べすぎると(1/4~1本程度)嘔吐、腹痛、下痢、幻覚作用などの症状が現れます。個体差もあるが死亡例は海外で数件ほどと非常に稀です。
似ている可食キノコ
タマゴタケ(ベニテングタケのイボが落ちているもの)
カキシメジ
カサの大きさが3~8cm程度、カサの色は黄褐色~赤褐色などの色で、ヒダは白っぽい色ですが、古くなると褐色のシミができるので群生しているキノコをきちんと確認することが重要です。
死亡例は報告されていませんが、後で紹介する迷信に騙されてか毎年数名の中毒事例が報告されている事故事例の多い毒キノコです。
分布
クヌギなどの広葉樹林や松などの針葉樹林の地上に生えます。
時期
秋
毒
ウスタル酸(ウスタリン酸)など
症状
食べてしまうと食後30分~3時間程度で頭痛、腹痛、嘔吐などの症状が現れます。
似ている可食キノコ
チャナメツムタケ、ヌメリササタケ、クリフウセンタケ、シイタケなど
ドクササコ
他に類を見ない凶悪なキノコでカサは5~10cm程度で成長し始めるとすぐに中心がくぼんだ漏斗形になり、縁は軽く波打っており、小さいときは内側に巻き込んでいます。
色はクリーム色から明るい茶色や褐色となっています。ヤケドキンやジゴクモタシなどの異名があり、不穏な名前の地方名も多数あります。
分布
本州の東北地方と日本海側を中心に分布していて、四国の一部地域でも存在が報告されて、北海道や九州では確認されていません。
主に竹藪や笹が群生する地面に生えていて、稀にコナラやスギなどの生えている林などでも確認されます。
時期
秋
毒
クレチジンやアクロメリン酸など
症状
食後6時間~7日程で食べた量が多いほど潜伏期間短くなって症状も重くなります。最初は目の違和感や吐き気などの症状が現れて、その後指先や鼻先、陰茎などの末端部分が火傷したように赤く腫れてとてつもない激痛が1か月以上も続き、さらに症状が重い場合には壊死して腐り落ちる場合もあります。
長期間続く激痛で精神的苦痛によるノイローゼや睡眠不足による衰弱などが起きて二次的な要因でも死の危険がある
似ている可食キノコ
ナラタケ、ホテイシメジ、アカハツ、チチタケなど
ニセクロハツ
カサは灰褐色で成長すると中心がくぼんだ浅井漏斗形になります。非常に毒性が強く致死量は2~3本程度と考えられており、日本でも昔から死亡例があります。最近では2018年にクロハツと間違えて食べてしまったニセクロハツによる死亡事例も出ています。
致死率も非常に高く、日本では1958年~2007年の間に15人が中毒を起こし、そのうち7人が亡くなっています。中国でも致死率が20%にもなったという情報があります。
ヒダはクリーム色ですが、傷がつくと赤く変色しその後は黒くなりません。クロハツは赤く変色した後にしばらくすると黒くなるので見分けることができます。
分布
富山県から愛知県よりも西に分布しており、シイ林などの地面に生えます。
時期
主に夏
毒
2-シクロプロペンカルボン酸など
症状
食後数分~24時間で嘔吐や下痢などが現れ、瞳孔が狭くなる縮瞳、呼吸困難、言語障害、血尿などの重い症状が出てきます。さらに重篤な場合には多臓器不全や腎不全を起こし死に至ります。
似ている可食キノコ
クロハツ、未分類の類似キノコなど
ドクツルタケ
欧米ではDestroying Angel(死の天使、破壊の天使、殺しの天使)という名前で呼ばれている致死率の高い超猛毒キノコです。
食用キノコに似ているため日本では中毒事例が何件も報告されており、1989年~2010年の期間で毒キノコの死亡者数は24人にもなりますが、そのうち11人はドクツルタケが原因とされています。
分布
ブナなどのある広葉樹林、マツの生えている針葉樹林などに生えます。
時期
初夏~晩秋
毒
アマトキシン類など
症状
食べてから数時間で腹痛、嘔吐、激しい下痢が起き、その後はひとまず症状が治まる偽回復期を挟んで、4,5日後ほどで胃腸からの大量出血、肝臓や腎臓が穴だらけのスポンジ状になってしまい恐ろしい症状が現れ、最終的には多臓器不全で死亡することが多いです。
偽回復期などを挟むためすでに消化吸収されているため胃洗浄などの対処ができず、解毒剤もないため手遅れになるケースが多く、致死率は50%程にもなります。
似ている可食キノコ
シロマツタケモドキ、ハラタケ、ツクリタケなど
ニガクリタケ
食用のキノコに非常に似ており、中には外観だけでは全く判断できないこともあるため中毒事例も多数報告されています。
カサの大きさは2~5cm程度の小型のキノコで、毒性がかなり強いため昭和31年には6人家族の子供4人が中毒により亡くなってしまうという凄惨な事故も発生しています。
分布
日本各地で見ることができ、針葉樹や広葉樹の木材や切り株に発生します。
時期
ほぼ一年中
毒
ファシクロール、ファシキュリン酸、ムスカリン類など
症状
食後3時間程度で腹痛、嘔吐、下痢、悪寒などの症状が現れ、症状が重い場合には脱水症状や痙攣、ショック症状などが現れます。その後神経麻痺や肝機能障害などが起きて最悪の場合には死に至ります。
似ている可食キノコ
ナメコ、クリタケ、ナラタケ、ナラタケモドキなど
タマゴタケモドキ
全体的に黄色い体色をしているためタマゴタケよりもキタマゴタケに似ています。誤食事故はあまり多くありませんが、1989年と2006年には北海道で死亡事故が起きており、誤食しないように注意を要する猛毒キノコです。
キタマゴタケはヒダの色が黄色くなること(タマゴダケモドキは黄色くない)、カサに条線が現れることで区別できるといわれています。
分布
日本各地、針葉樹林や広葉樹林などの地上に発生します。
時期
初夏~晩秋
毒
アマトキシン類など
症状
ドクツルタケと同様に食後数時間で嘔吐や激しい下痢が起き、いったん症状が治まる偽回復期を挟んで多臓器不全により死に至ります。
含まれる毒の量はドクツルタケほどではないが、非常に危険な毒キノコです。
似ている可食キノコ
キタマゴタケなど
キノコにまつわる誤った言い伝え
味なキノコは食べられるは間違い
今回紹介したキノコもほとんどが地味な色だった通り、地味な色のキノコでも猛毒を持ってる種類がたくさんあります
香りのいいキノコは毒がないは嘘
クサウラベニタケのように不快なにおいを発する毒キノコもあれば、ドクササコのようにいい香りで猛毒を持っているキノコもありるので、これは完全に間違いです。
虫のついたキノコは食べられるは間違い
超猛毒を持ったドクツルタケやシロタマゴテングタケや今回紹介したツキヨタケにも虫はつくので、虫がついているからといって食べられるわけではありません。
ヒトにとっては有毒でも、ほかの生き物では毒にならないことはキノコに限らずよくあります。
縦にさけるキノコは食べられるというのも間違い
超猛毒を持つドクツルタケやドクササコも縦に割くことができます。割ける方向で毒の有無は全然判断できないので注意しましょう。
ナスと一緒に料理すれば食べられるは間違い
ナスに限らず他の食品と調理してもキノコの毒性がなくなることはありません。妙な言い伝えや迷信は信じないよう注意する必要があります。
干して乾燥すれば食べられるは間違い
キノコに含まれる毒のほとんどは一般的な調理や処理方法では無毒化できません。干して乾燥させ、その後水に戻したりしても毒性が残っていることが大半です。
塩漬けにして水洗いすれば食べられるも間違い
ベニテングタケでは数か月塩漬けにして水にさらすことが毒性が弱まることが知られており、長野やロシアなどでは少量を食べる分がありますが、それ以外のキノコに対しては基本的には毒性を弱める(なくす)効果は期待できないと思いましょう。
本当に極一部のキノコにのみ当てはまることで基本的には間違いなので惑わされないようにする必要があります。
カサの裏側がスポンジ状のキノコは食べられるは間違い
イグチの仲間はカサの裏がヒダではなくスポンジ状になっています。食べられる種類が多かったためこのような言い伝えが出てきましたが、今ではドクヤマドリなどの毒キノコが存在してることがわかっているため間違いです。
まとめ
日本には未分類のキノコも含めると5000種類以上があると言われています。キノコ狩りのシーズンを中心に毎年数十人~100人以上の人が中毒事故を起こしています。
中毒事例の大半はツキヨタケ、クサウラベニタケ(イッポンシメジ)、テングタケなど一部の毒キノコが占めていますが、中には超猛毒を持った毒キノコによる中毒症状も報告されています。
キノコにまつわる間違った言い伝えや迷信が多数あるので、信じずに県や国が報告している信用できる情報をもとに判断するようにしましょう。
なお、本ブログも基本的には厚生労働省などが開示している情報をもとに作成しています。ただし、誤ったり情報が古い場合もあるのでご注意ください。
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