猛毒が塗られた靴を貫通するほど鋭いトゲを持つ日本でも身近な軟骨魚類 アカエイ

水中の生き物

アカエイとは?

アカエイ(赤鱏、学名: Hemitrygon akajei)は、トビエイ目アカエイ科に属する軟骨魚類の一種で、日本近海を含む西太平洋に広く分布しており、日本の沿岸域で最も見られるエイの一種です。
体は平たい円盤状で幅は大きいもので1.5mにも達し、尾の先端までの全長は2mを超えることもあります。

アカエイの腹面

体色は背面が赤褐色から茶褐色で腹面はキレイな白色をしています。腹面は顔のように見えますが、目のように見える部分は実は鼻の穴のため、眼は背面側についています。

食性は肉食性で貝類や甲殻類、魚類など海底に生息している獲物を幅広く食べます。口の中は小さな歯が敷き詰められていて硬い甲羅などもボリボリと食べられる構造になっています。アサリの漁場では食害が問題になることもあります。

【クリックで拡大】アカエイの毒棘
Photograph by Ffish.asia

最も特徴的なのは長く鞭状に伸びた尾で、尾の中央付近にはノコギリ状の鋭い棘(毒棘)が1〜2本生えています。このトゲには、時には人の命を奪うこともあるほど強力な毒が備えてあります。

アカエイは主に夜行性のため日中は砂泥底に潜って眼だけを外に出して休んでいることが多く、夜になると餌を求めて動きだすため夜釣りの時に特に釣れる外道として扱われることもあります。
アカエイの生態のもう一つの特徴としては、卵を体外に産卵するのではなく母体内で稚魚を育ててから産む胎生であるという点があります。一度に生まれる数は5~10匹ほどです。

分布・生息環境

アカエイは東アジアの沿岸域を中心に広く分布していて、海外では朝鮮半島、中国大陸沿岸(黄海、東シナ海、南シナ海)、台湾など、西太平洋の温帯から亜熱帯にかけての海域に分布しています。
日本では小笠原諸島を含めて北海道南部から九州、南西諸島にかけて日本全域の沿岸域に生息しています。
生息環境としては、主に沿岸の浅い海域に生息していて水深数十メートルまでの砂地や泥底を好みます。
また、内湾、河口域といった比較的汽水の影響を受ける場所でもよく見られます。これは、餌となる底生生物が豊富に生息しているためです。
夏から秋にかけては、水温が高くなる海水浴場や干潟などの非常に浅い場所にも侵入してくることがあり、日中は砂や泥の中に潜んでいることが多いことから、海水浴客や潮干狩り、釣り人が踏みつけたり、触れたりすることで刺される事故が発生しやすく注意が必要です。

アカエイの毒とは?

アカエイの毒は毒棘の表面についている黒っぽい粘液に含まれており、不安定な高分子の酵素である「5ーヌクレオチダーゼ」「ホスホジェステラーゼ」が主成分のタンパク質毒です。
尾にある毒棘は長さ数cm~十数cmにもなり、硬く鋭いだけでなく返しのあるノコギリ状になっているため、一度刺さるとなかなか抜けず毒が体内に流れ込む仕組みになっています。
また、アカエイの尾には小さく鋭い硬いトゲがたくさんついているため、素手で触ってしまうと刺さったり切ったりしてしまい体内に毒液が入ってしまうこともあります。
また、踏んでしまったり近くを通ると暴れながら尾を振り回すことやサソリのように毒針を刺すような行動をとることがあるため、深く刺さったり広い範囲を切られたりして毒が大量に体内に流れこむことがあります。

刺された時の症状

もしも有毒成分が体内に入ってしまうと電撃が走るような、もしくは焼けるような激しい痛みがすぐに現れて、刺された場所の周辺に症状が広がることもあります。
痛みは刺されてから90分以内に最も強くなることが多いですが、多くの場合は6~48時間程度で徐々になくなります。ただし、場合によっては数日~数週間持続することもあります。
症状が重い場合には失神、筋力低下、悪心などの症状やリンパ管炎、嘔吐、下痢、発汗、痙攣,痺れといった症状が現れて、最悪の場合には死に至ることもあります。
10kgを超えるような大型な個体による大きな刺し傷や切り傷での大量出血や、ノコギリ状のトゲによる感染症などにも注意する必要があります。

著名人の死亡事故

オーストラリア動物園でクロコダイルに餌付けするアーウィン氏
Photograph by Richard Giles

アカエイによる死亡事故は世界的に見ても稀ですが、オーストラリアの動物学者でドキュメンタリー番組の司会者であったスティーブ・アーウィン氏はアカエイのトゲによりこの世を去っています。
スティーブ・アーウィン氏は、2006年9月4日、オーストラリアのグレートバリアリーフでドキュメンタリー撮影中にアカエイに胸部を刺されました。
この刺傷により、アーウィン氏は心停止を起こし、現場で死亡が確認されました。
死亡原因は、アカエイの毒による直接的な毒作用ではなく、毒棘が心臓付近に刺さったことによる物理的な外傷が主因であると報告されています。
この事例は、アカエイの毒性だけでなく、その棘の形状と刺突力による物理的な危険性を世界中に知らしめることとなりました。

もしも刺されたら?

アカエイに刺された場合の応急処置と医療対応は、毒の性質と物理的な外傷の両方に対応することが重要です。
  1. 安全の確保:
    • 直ちに海から上がり、安全な場所へ移動します。
    • 刺してきたアカエイによるさらなる被害を防ぐためにアカエイから離れます。
  2. 毒の除去と痛み軽減(熱湯療法):
    • 患部を40℃〜50℃程度の熱いお湯に30分〜90分程度浸すことで痛みを軽減することができるとされています。これは、アカエイの毒が熱に弱いタンパク質であるという性質を利用し、毒の活性を失わせることを目的としています。
    • ただし、やけどをしないよう、お湯の温度には細心の注意を払う必要があります。
  3. 傷口の洗浄と確認:
    • 傷口を清潔な水でよく洗い流します。
    • 傷口に残った棘の破片や皮膜がないか慎重に確認し、もし残っていれば、ピンセットなどで可能な限り取り除きます(無理な除去は避ける)。
    • 毒棘の破片が深く残っていると、化膿や壊死の原因となるため、医療機関での処置が必要です。
  4. 医療機関での処置:
    • 速やかに医療機関(外科、皮膚科、救急外来など)を受診してください。
    • 病院では、傷口の深い洗浄、破片の除去、破傷風の予防接種、必要に応じて抗生物質の投与などが行われます。
    • 全身症状(呼吸困難、意識障害など)が見られる場合は、緊急処置が必要です。

まとめ

アカエイ(Hemitrygon akajei)は、日本沿岸の砂泥底に広く生息する大型のエイです。
その尾には防御のための鋭い毒棘があり、棘の基部にある毒腺から強力なタンパク質毒を分泌します。アカエイの毒棘に刺されると、焼けつくような激しい痛みと腫れが生じ、重症の場合は吐き気や血圧低下といった全身症状を伴います。
特に、著名な動物学者スティーブ・アーウィン氏の死亡事故は、毒棘が胸部に刺さったことによる物理的な外傷の危険性を示しました。
もし刺された場合は、毒が熱に弱いタンパク質であるため、45℃~50℃の熱いお湯に患部を浸す応急処置が推奨されますが、感染症や重篤な症状を避けるため、直ちに医療機関を受診することが不可欠です。

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