トリカブトとは?
茎はまっすぐか少し斜めに1m程度の高さまで成長する種類が多いですが、中にはツル性の種類もあります。トリカブトという名前は、鳥兜や烏帽子のような特徴的な形をした花に由来しており、英名では「monkshood(僧侶のフード)」と呼ばれています。
分布と生息地
似ている山菜
似ている山菜がたくさんあるため、毎年のように誤って食べてしまい中毒症状が出てしまっており、中には死に至ってしまう場合もあります。
山菜を取る際は花が咲いていて区別が確実につくものや、ベテランと取るなどし、細心の注意を払いましょう。
特にニリンソウは非常に似ているだけでなくトリカブトと混生することもあるため、花を咲かせていない時期に採取するのは細心の注意を払う必要があります。
この写真のような混生もありますが、ニリンソウが群生している中にポツンと一本だけトリカブトが混ざっていることもあります。
トリカブトの毒性
毒の成分
主な毒の成分はジテルペン系アルカロイド(アルカロイドは窒素原子を含む天然由来の有機化合物の総称です)のアコニチンですが、他にもメサコニチン、アコニン、ヒパコニチン、アチシン、ソニゴリンなどの様々な毒が含まれていることがわかっています。
この毒はトリカブトの葉、茎、根、花、花粉、蜜などすべてに毒が含まれています。密にも毒が含まれているため、天然のはちみつを食べたことによる中毒例も報告されているため、もし天然のはちみつを食べる機会がある場合には、トリカブトの花が咲いていない時期であることを確認する必要があります。
養蜂家はトリカブトが自生している地域では、はちみつを採取しないかトリカブトの開花時期を避けているため、市販品は安心して食べることができます。
摂取してしまった場合の症状
トリカブトを摂取するとすぐに嘔吐、痙攣、呼吸困難、臓器不全などが起こり、摂取量が多い場合には心室細動や心停止が起きて死に至ります。
アコニチンは非常に強力な猛毒で、即効性があるため摂取してから10~20分程度で中毒症状が現れることが多く、摂取量が多い場合には数秒か数分以内に症状が現れます。
しかも、食べなくても肌や粘膜からも毒が吸収されるため、飲み込まなくても口に含んだり、素手で触ったりするだけでも中毒症状が現れることがあります。
致死量
アコニチンの致死量は成人で1.5~6mg/kg程度と考えられており、60kgの人であれば、90~360mgが致死量となります。
ただし、トリカブトの種類や地域によってはアコニチン以外にも毒性の強い成分が多く含まれていることもあるため、トリカブトを摂取した量が少なかったとしても様々な毒の成分の総計が多ければ死に至る可能性があります。
マウス毒性および加熱による含有量の減少」によると、毒量の多い根っこには、毒の量が比較的少ない葉の100倍以上の猛毒が含まれており、根っこ1g中に約2.7mgもの毒類が含まれていることが確認されています。
葉を30秒~3分程度ゆでると70%程度の毒が減少し、大半はゆで汁に毒が移行するという結果が得られています。10分ゆでるとさらに葉の毒は減少し85%程度まで減ります。
ただし、誤食されているときは、おひたしなどで食されることが多いため、数十秒~1分程度しかゆでられていないことが多いため、30%程度残っている状態で摂取していると考えられます。
それでも、数年に1度は死亡事故が起きてしまっていることを考えると、一度に多量摂取してしまったか、非常に毒性の強いトリカブトを摂取してしまっていると考えられます。
症状が現れてしまったら?
残念ながら有効な解毒剤や特異的な治療方法はなく、毒を吸収させないために胃洗浄などの措置が取られます。即効性が高いため、もしも症状が現れ始めたらすぐに病院に行き、できる限りの対処をしてもらいましょう。
アコニチンの半減期(血液中の毒の量が半分になるまでの時間)は比較的長いですが、症状が現れてから24時間耐えることができれば助かる可能性が高いようです。
トリカブトの利用
狩猟・武器としての利用
矢に毒として塗り、狩猟や武器を目的に北東アジアやシベリア文化圏で使用されてきました。ゴールデンカムイでも出てきましたが、アイヌではトリカブトの根を「スルク」と呼び、アマッポ(狩猟を目的とした弓矢)の矢じりに毒を塗りつけて、ヒグマやエゾシカを狩猟していました。
医療として利用
また、医療用として漢方にも使われています。塊根の附子(ぶし)を修治と呼ばれる弱毒処理をして、漢方薬に利用されています。
強心作用や鎮痛作用があるほか、皮膚オン上昇や末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効とされています。
COVID-19の治療薬としての利用
2021年4月16日キルギス政府は、トリカブトの塊根から抽出した成分に新型コロナウイルス感染症への治療効果があると発表し、すでに何百人科の患者に同意のもと処方されていると発表されました。
本当にあった推理小説のような事件
1986年に実際に起きた保険金目当てに妻を手にかけるという殺人事件にトリカブトが使われたことがあります。
アコニチンの症状が現れるメカニズムは、細胞膜にある神経伝達するためのNa+チャネルを活性化させてしまうことにより起こりますが、一方でふぐ毒として有名なテトロドトキシンはNa+チャネルを不活性化させることで様々な症状が現れます。
そのため、アコニチンとテトロドトキシンを同時に摂取すると拮抗作用が起こり、どちらの症状も現れないという状態になります。
しかし、アコニチンとテトロドトキシンの半減期(血中の毒量が半分になるのにかかる時間)を比べると、テトロドトキシンの方が短く、早く無毒化されます。そうなると、拮抗状態が崩れてしまい、アコニチンの症状が時間差で現れることになります。
アコニチンの致死量を摂取すると、早ければ数十秒、長くても数十分で死に至ってしまいますが、この事件では拮抗作用により摂取から約1時間40分後に症状が現れ始めました。
このトリックを使って犯人はアリバイ工作をしたことで、容疑者から外れました。アリバイ工作の概要は以下の通りです。
- 沖縄の石垣島旅行を計画し友人と共に出発
- 夫(犯人)が妻にサプリメントに見せかけた毒薬を飲ませる
- 那覇空港で夫だけ急用があると言い自宅に引き返す(友人と妻は石垣島に出発)
- 石垣島到着後妻がトリカブトの中毒症状を発症し死亡
超スピード結婚後に多額の保険金が掛けられ、その直後の不審死(司法解剖をした担当医師の機転が利いたことで判明)だったこともあり、後に血液検査をした結果、アコニチンとテトロドトキシン(正確には代謝物)が出てきたことで事件が解決し、犯人には無期懲役が言い渡されました。
恐ろしいことに、この犯人にはこの事件以前にも2人の妻がいましたが、どちらも心臓発作でなくなっています。今では真相はわかりませんが、この時も毒が使われていた可能性があります。
まとめ
トリカブトは日本各地に生息する猛毒植物です。
毎年のように似ている山菜との間違いによる誤食による中毒症状が報告されており、死亡事故も発生しています。
もしも摂取してしまっても有効な解毒方法は確立していないため、山菜取りや山菜をもらう際には十分に注意しましょう。
漢方や治療薬しても使われていますが、毒性が強すぎるため取り扱いは難しいようです。今後解毒方法やさらなる活用の研究が進むことに期待しましょう。
コメント