食べても噛まれても死の危険がある小さな猛毒軟体生物 ヒョウモンダコ

水中の生き物

ヒョウモンダコとは?

岩に張り付いている通常状態のヒョウモンダコ

ヒョウモンダコは、マダコ科ヒョウモンダコ属に属するタコの総称です。
世界に4種類のヒョウモンダコがいますが、いずれも猛毒のテトロドトキシンを持っており、ヒトの死亡例もある非常に危険な猛毒タコです。
体長は10cm程、体重は約20gの小型のタコで、他のタコと同じように体の色を素早く変えることができ、岩場や海藻などに擬態することができます。しかし、外部からの刺激や天敵が現れると擬態をといて、毒を持っていることをアピールするために、ヒョウ(豹)のような丸い輪っか形をした青い模様を体中に浮かび上がらせて、体色も真っ黄色に染めた警告色に変わります。
和名の「ヒョウモンダコ(豹紋蛸)」はヒョウ柄に見えることから名づけられています。ちなみに、英名ではそのまま「Blue-ringed octopus」と呼ばれています。
墨袋は退化しているため、墨を吐くことはできずに泳ぎも得意ではありません。これは後述する超強力な毒を使って外敵から身を守ったり、獲物を捕食したりすることができるようになったため、このような進化をしたと考えられています。

ヒョウモンダコの種類

ヒョウモンダコ属に属するタコは世界で4種類が確認されていますが、日本では「Hapalochlaena fasciata」のことをヒョウモンダコと呼んでいます。その他はオオマルモンダコとコマルモンダコと呼ばれており、オオマルモンダコは名前の通り、青い輪っかのサイズが7~8mm程度と比較的大きく、コマルモンダコは輪っかが小さめという特徴があります。

4匹目は1938年に1匹確認されましたが、それ以降捕獲されておらず存在が疑問視されています。

和名
英名
学名
ヒョウモンダコ
Blue-lined Octopus
Hapalochlaena fasciata
オオマルモンダコ
Greater Blue-ringed Octopus
Hapalochlaena lunulata
コマルモンダコ
・ Lesser Blue-ringed Octopus
・Southern Blue-ringed Octopus
Hapalochlaena maculosa
Hapalochlaena nierstraszi

分布

日本にも生息しており、以前は小笠原諸島や南西諸島(九州の南から台湾北東)よりも南にとどまっていました。しかし、近年の海水温の上昇に伴って徐々に本州にも分布を広げており、1999年には大阪湾で、2009年には九州北部で多数の目撃情報が寄せられています。最近では、神奈川県や千葉県の海ではもちろんのこと、日本海側の目撃情報も増えているため注意が呼びかけられています。

太平洋の熱帯地域、亜熱帯地域~オーストラリアまでの暖かい海に分布しており、比較的身近にいる危険生物として注意が呼びかけられています。

良く目撃される場所

浅い海の岩礁やサンゴ礁、砂礫底に生息しているため、磯遊びやシュノーケリング、ダイビングなどをしていると見つけられることもあるようです。小さくて擬態もしているため普段は見つけにくいですが、見つけたとしても絶対に近づいてはいけません。

泳ぎは得意ではなく、積極的に人間を襲うようなことはありませんが、自分から触りにいくと噛まれて猛毒を注入される可能性があり、命にはかかわってくる場合があります。

ヒョウモンダコの毒性

黒い背景に浮かぶ興奮時のヒョウモンダコ

毒の成分

持っている毒は、ふぐ毒として有名な「テトロドトキシン」を持っており、その他にもヒスタミン、ドーパミンなど様々な成分が含まれていることがわかっています。また、「ハパロトキン」という毒の存在も示唆されていますが詳しいことはわかっていないようです。

ヒョウモンダコはこれらの毒を使って外敵や捕食者に対して有効で身を守るために使っており、その小さい体に人の命を奪えるほどの量を持っています。

また、ヒョウモンダコは大好物であるカニやエビなどの甲殻類に対しても捕食する際に毒を海中に振りまいて相手の動きを抑えていると考えられており、反撃や逃げられるリスクを最小限にしているようです。

毒のある部分

水槽の壁に張り付いている赤色っぽいヒョウモンダコ

ヒョウモンダコは唾液にテトロドトキシンを含む毒を備えており、身の危険を感じると毒を吐き出したり、嚙みついた際に毒を注入してきます。

以前は唾液にのみ毒が含まれていると考えられていたため、きちんと処理すれば食べることもできると思われていましたが、2018年に筋肉体表にもテトロドトキシンが含まれていると報告されました。

テトロドトキシンは熱に非常に強く、300℃以上に加熱しても分解されず残り続けるため、触るのはもちろんNGですが、絶対に食べてもいけません。

ちなみに実際に刺されてしまった人のツイートが注目されていました。絶対にマネしないようにしましょう。

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刺された時の症状

テトロドトキシンは全身を徐々に麻痺させる効果があります。これは脳からの指令を妨害する効果があるためです。例えば「指先を曲げなさい」という指令が脳から出されると、指先がその指令を受け取って初めて指先が曲がりますが、この指令が毒により妨害されて指先が指令を受け取ることができなくなることで、思うように体が動かせなくなるというメカニズムです。

症状が重い場合には、無意識に行っている「呼吸しなさい」という脳からの指令すら毒により妨害されてしまい、呼吸ができなくなってしまいます。

第1段階

20分後~数時間後に口やくちびる、舌先、指先などが痺れてきます。その他頭痛や腹痛、めまいなどが発生します。

第2段階

麻痺が徐々に広がってきて思うように体が動かせなくなってきます。その他言語障害や血圧低下、呼吸困難などの症状が現れます。

第3段階

全身に痺れが広がり体が全く動かせなくなります。周りから見ると意識を失っているように見えますが実は意識ははっきりしているそうです。血圧低下と呼吸困難がさらに進行します。

第4段階

意識が完全になくなります。また、最悪の場合、呼吸が停止し死に至ります。

致死量

テトロドトキシンは致死量はマウスに対しては以下の通りで、極少量となっており、これは青酸カリの500~1,000倍(文献によっては850倍)の強さとも言われています。

そして恐ろしいことに、食べてしまうよりも体内に直接注入された方がより少ない量で死に至ってしまうという特徴があります。

ヒョウモンダコは噛みついたときに毒を注入してくるので、マウス皮下の量が一つの目安になります。

ヒョウモンダコの持っている毒の量は季節や個体差もありますが、日本産の個体では多いもので0.02gの稚ダコに約0.8mgもの毒を持っていることが確認されています。これは1g換算で41.6mgものテトロドトキシンが含まれていることになります。

人に対しての致死量は食べた場合で、1~3mg程度と言われています。ヒョウモンダコの中にはさらに多くの毒を持っている個体もいると考えられるため、十分に人の命を刈り取ることができる超危険生物ということがわかると思います。

マウス経口 LD50 0.01 mg/kg
マウス皮下 LD50 0.0085 mg/kg
用語解説
LD50(50%致死量、半致死量):Lethal Dose 50
ある一定の条件で動物にある物質(成分)を投与した場合に、動物の半数を死亡させる物質(成分)の量を示しています。LD50を使うことでその物質(成分)の毒性を比較することができます。一般的にはLD50 1500mg/kg以上の物質(成分)が安全とみなされています。

ヒョウモンダコの天敵は?

水中にいるコウイカ

コウイカが天敵

こんな危険な毒を持っているヒョウモンダコですが、実は身近な生き物が天敵です。

それは、みんな大好き「コウイカ」です。食用として流通しているコウイカはヒョウモンダコの毒が全く効かないため、泳ぎが不得意で墨も吐くことができないヒョウモンダコは格好の的になります。

コウイカはヒョウモンダコの毒をため込まないため、コウイカを食べても中毒になる心配はないので安心してください。

対処方法は?

診察票に記載している医師

テトロドトキシンの解毒、治療方法は確立されておらず対症療法を取るしかありません。体の中で徐々に無毒化はされていくため、病院で対処療法を受けながら時間経過を待つしかありません。

だからと言って放置して良いというわけではなく、心停止などが起きてしまうような重症な場合でも適切な医療処置を受ければ助かる可能性はあるため、必ずすぐに病院を受診するようにしましょう。

また、スキューバダイビングや磯遊びで、原因のわからないケガをしてしまった場合には、ヒョウモンダコのような猛毒生物によるものの可能性もあるため、しっかりと医療機関を受診しましょう。

まとめ

ヒョウモンダコは日本各地の浅瀬や岩礁にも生息している小型の猛毒タコです。

唾液にはテトロドトキシンが含まれており、噛みつかれた際に毒を注入される危険性があり、実際にヒトの死亡例も確認されています。また、体にもテトロドトキシンが含まれているため絶対に食べてはいけません。

興奮すると体色が警告色の黄色になり、青いリングが体中に浮き上がるので、すぐに見極めて離れましょう!

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