オーストラリアの海に潜む目に見えない小さな暗殺者 イルカンジクラゲ

イルカンジクラゲ 水中の生き物
Photograph by jellyjess

イルカンジクラゲとは?

引用:https://ucmp.berkeley.edu/cnidaria/C_barnesi.html

イルカンジクラゲはハコクラゲの仲間で、恐ろしい有毒成分を持った小さなクラゲです。イルカンジクラゲはいくつかのクラゲの総称で、16種ほどが知られていますがその中でもCarukia barnesi、Malo kingi、Malo maxima、Malo filipina、Malo bellaなどの種がよく知られています。

アボリジニの農民

オーストラリアとその周辺の島々の先住民であるアボリジニのイルカンジ部族の伝承に、海にはとても小さく見ることができない「怪物」が棲んでいると言われてきました。

その正体がイルカンジクラゲであったことから、部族名をとってイルカンジクラゲと名付けられました。
大きさは種にもよりますが1cm3~5cm3程度と非常に小さい体に最長で50cmほどになる毒針のついた触手が4本生えています。

分布・生息地

イルカンジクラゲはオーストラリア北部の海域に生息しています。そのため、オーストラリア政府は観光業の損失と医療で年間30億豪ドル(約2800億円)もの損害を被っているとも報告されています。
また、生息域が年々南下していることが確認されていて、東海岸ではフレーザー島にまで拡大し、西海岸ではニンガルー・リーフにまで広がっていることが確認されています。
暖かい水に引き寄せられるため海岸近くに生息していることが多く、海水浴やダイビングなどを楽しむ際には注意が必要です。ただし、沖合5kmほどで大量発生しているのが確認されたこともあります。
ちなみに、この地域にはイルカンジクラゲとは別に、オーストラリアウンバチクラゲという殺人クラゲも生息しています。詳しくは以下のページで紹介しています。

イルカンジクラゲの毒

Photograph by jellyjess

イルカンジクラゲも他の毒を持ったクラゲと同じように触手に毒針(刺胞)を持っていて、皮膚などに触れると毒針を刺して毒を注入します。
その毒性は非常に強く、この小さな体から放たれる極微量の有毒成分がヒトの体内に入ると致命的な症状を引き起こします
イルカンジクラゲによって引き起こされる症状は似通っているためまとめて「イルカンジ症候群」と呼ばれています。
刺されてしまった直後は少し刺激を感じますが、傷跡が目立たないため刺されたことに気が付かないこともあります。刺されてから5~120分(平均30分)程度で激しい痙攣、背中や腎臓の激痛、皮膚や顔の灼熱感、頭痛、嘔吐、300を超えるほどの血圧の上昇、心拍数の上昇などを引き起こし最悪の場合には、致命的な脳出血などを引き起こして死に至ります。
イルカンジクラゲの持っている毒は非常に不安定であること、イルカンジクラゲが小さく毒の採取が非常に難しいことから具体的な成分の解析はあまり進んでいませんが、その強さはコブラの100倍、タランチュラの1000倍とも表現されています。
ちなみに、イルカンジクラゲの中で実際にイルカンジ症候群を引き起こすのが実際に確認されているのは16種中のCarukia barnesiMalo kingiの2種のみです。

事故事例

Photograph by jellyjess

2020年1月1日から12月初旬までの間に、クイーンズランド州北部沖のパーム島周辺の海域で23件の刺傷が発生し、そのうち7件はイルカンジ症候群で入院が必要となったと報告されています。
また、2002年にオーストラリア北部の海岸でイルカンジクラゲが原因とされる事件が相次ぎ、2人が死亡したことが確認されています。
別の年には3か月間という短い期間で観光客5人がイルカンジ症候群により命を落としたと報告されたこともあります。
このように、観光客の刺傷事故が毎年起こっていてその数は年間50~100件にも上ると言われており、非常に身近で危険なクラゲだということが分かると思います。

刺されないための対策

刺胞は非常に小さいためラッシュガードなどを着て肌の露出を抑えることで刺傷事故のリスクを多少抑えることが出来ます。
また、遊泳する際にはクラゲ除けネットが設置されている場所を選ぶなどの自己防衛を徹底することが重要です。ただし、クラゲ除けネットも万能ではないので注意が必要です。
遊泳中に違和感を覚えたり、海から上がった後に少しでも異変を感じたらすぐに病院に行って治療を受けましょう。
対症療法として、抗ヒスタミン薬や降圧薬、モルヒネ等の痛み止めを投与し症状が治まるまでの数日から数週間経過を観察します。通常1回の刺傷では死に至る危険性は低いですが、対処が遅れると大事に至る危険性があるため注意しましょう。

まとめ

イルカンジクラゲはオーストラリア北部の海域に生息する非常に小さな猛毒クラゲで、オーストラリアウンバチクラゲに並び殺人クラゲとして現地の人々に恐れられています。
有毒成分について細かい解析は進んでいませんが、刺された時の症状はイルカンジ症候群と呼ばれ、過去には死亡事例も多数報告されています。
オーストラリアで海水浴などを楽しむ場合には、クラゲ除けネットが設置されている場所を選び、ラッシュガードなどを着用して肌の露出を減らすことが大事です。

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