ズグロモリモズとは?
ズグロモリモズはスズメ目コウライウグイス科ピトフーイ属に属す鳥で、体長25cmで日本でよく見るヒヨドリと同じくらいの大きさで、重さ65g程度の重さです。
オウムやキバタンなどにある冠羽(頭に伸びた長い羽)の鮮やかなオレンジ色と黒のコントラストがきれいなかわいい鳥です。
こんなかわいい見た目の鳥ですが、自然界の中でもTOP5に入るくらいの強さである超猛毒を有している世界的にも珍しい鳥です。
ズグロモリモズと共通の外敵に対して自身の危険性をより知らしめるために、ズグロモリモズとそっくりな見た目をした別の有毒な鳥の存在も確認されています。このような擬態方法をミューラー型擬態と言います。
ちなみに、毒を持っていないのに毒を持っていると外敵に思わせるため有毒種に似た見た目になる擬態方法をベイツ型擬態と言います。
食性は肉食性で昆虫などを食べています。独特な酸味感のある不快な臭いを発し、皮は苦いとされ食用に適さないことから生息域に棲んでいる現地人には「つまらない鳥」とも呼ばれているようです。
分布・生息域
インドネシアやパプアニューギニア、その周辺の島のジャングルを中心に生息しています。
日本には生息していないため持っている毒の被害を受ける心配はありません。
また、他にも毒を持つ鳥類は続々と見つかっていますが、いずれも日本には生息していないため気軽に会うことはなかなかできません。
世界で初めて有毒鳥類に認定された鳥
かつて、毒を持つ鳥は実在せずに伝説上の生き物とされていました。空想上の毒鳥と聞いてもピンと来ない人が多いと思いますが、中国の古い文献の中に毒を持った鳥「鴆(ちん)」という鳥が出てきます。
有名な著書である「韓非子」や「史記」の中でも登場しており、その毒は羽1枚で相手を毒殺できたと言われています。そんな鴆に関する記述はあまり多くなく、記述もバラバラ、そして南北朝時代以降(西暦600年前後移行)は文献の中からもその姿を消したことで伝説(空想)上の生き物とされるようになりました。
そんな中、1990年にシカゴ大学の研究チームがズグロモリモズを捕まえた際に羽を触っていたところ、痛みとしびれを感じたことから、ズグロモリモズは毒を持っている可能性に気が付きました。
その後研究が進められ世界で初めて毒を持つ鳥類として認定され、権威ある科学誌「サイエンス」にも掲載されることになりました。
その後、ズグロモリモズ以外にも5種ほどの鳥が毒を持っていることが分かったため、いまでは毒を持つ鳥類がいることは一般的になりました。
ズグロモリモズの毒
ズグロモリモズは自然界でも最強クラスの毒と言われている神経毒バトラコトキシンに似た構造をしている「ホモバトラコトキシン」を筋肉や羽に持っています。
バトラコトキシンはあらゆる生物に対して毒性を示し、その強さはなんと1mgで体重60kg程度のヒト5~10人もの命を奪えるほどとされています。これは、青酸カリの2000~3000倍ほどの強さを示すことになります。
バトラコトキシンは神経毒として作用するため、もしも体内に入ると信号を伝達させるナトリウムイオンチャネルに作用して信号を送れなくさせるため、麻痺症状が現れます。その作用は生物が無意識でも行っている「心臓を動かす」というような機能にまで作用するため、症状が重い場合には心不全や呼吸麻痺などにより死に至ります。
この毒はズグロモリモズに付くシラミや寄生虫に対しても効果を発揮するため、様々な生物が生息する危ない奴らから身を守ることに役立っています。
毒の獲得方法
毒を持つ生き物は「自ら毒を生産する生き物」と「毒を持っている生き物から獲得する生き物」と大きく二つに分けられます。
ズグロモリモズは後者の「毒を持っている生き物から獲得する生き物」です。昆虫類「Choresine属の甲虫」はバトラコトキシンを生産することが知られており、ズグロモリモズはこの虫を食べることで毒を獲得し筋肉や羽に蓄えます。
実際に研究ではズグロモリモズに無毒の餌を与えて飼育したところ、筋肉からも羽からも毒は検出されませんでした。
身を守るために毒を身につけた昆虫を逆に利用して自分自身を守るスゴイ進化をした鳥なんです。
似た毒を持つ他の生き物
南米に生息しているヤドクガエルの仲間にもバトラコトキシンを持っている種が何種類かいます。彼らも昆虫を食べることで毒を獲得しています。
ヤドクガエルの持っている様々な毒や面白い種類はこちらで紹介しているのでぜひみてください!
日本で最も強い毒を持つ陸上のヘビ「ヤマカガシ」も獲物から毒を獲得する恐ろしい毒ヘビです。
まとめ
ズグロモリモズはインドネシアやパプアニューギニア、その周辺に生息するヒヨドリくらいの大きさの鳥です。筋肉や羽に猛毒を持っており、触るだけでもしびれや麻痺の症状が現れ、もしも体内に入ってしまうと極わずかな量でも死に至る危険性があります。
毒を持つ鳥は伝説の中だけの存在でしたが、1990年に毒を持っていることが見つかったことから世界で初めて毒を持つ鳥類として認定されました。
猛毒を生産する昆虫を食べることで自分の体に毒を蓄えていて、ジャングルに潜む様々な外敵から身を待っています。とってもかわいい見た目をしていますが、食用には向いていないため現地の人からは「つまらない鳥」と言われているちょっとかわいそうな鳥です。
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