ギネス世界記録に認定された世界一危険な樹木 マンチニール

砂浜に落ちてる大量のマンチニール 植物
Photograph by Laurie Voss

マンチニールとは?

黄色いマンチニールの実

Photograph by Dick Culbert

マンチニールはトウダイグサ科ヒッポマネ属の植物です。小さなリンゴに似た果実を実らせて、熟すと緑から黄色になるので見た目はとってもおいしそうですが、一口食べてしまうと恐ろしいことが起きてしまう猛毒植物です。

分布している地域が限られており、個体数の減少も進んでいますが、2011年にギネス世界記録に「最も危険な樹」に認定されており、現地の人からは非常に恐れられています。

マンチニールの花

引用:https://kibou85.blog.fc2.com/blog-entry-817.html

大きさは高さ15mほどに成長する常緑樹で、樹皮は赤灰色できれいな緑色の葉をつけます。小さくて黄色い可愛らしい花を咲かせますが、その見た目からはとても毒があるとは想像できません。

葉っぱは典型的な丸みを帯びた形をしていて、きれいな緑色をしています。縁の部分は細かい鋸歯状で、大きさは5~10cm程度でうっそうと茂っています。

分布

北アメリカ南部から南アメリカ北部が原産で、カリブ地方、フロリダ州、バハマ、メキシコ、中央アメリカ、そしてアフリカ大陸に西側沿岸部に一部分布しています。 沿岸部に育成していることと、リンゴのような実をつけることから「ビーチ・アップル」という名前でも知られていますが、スペイン語では「死の小林檎」という意味の名前でも呼ばれています。 幸いなことに日本にはないので、海外旅行に行かない限り出会うこともありません。ただ、もしも海外の特に北アメリカ南部や南アメリカ北部付近に行くことがあったら気を付けましょう。

生えている場所

マンチニールは沿岸の砂浜や汽水域の沼地に群生しているマングローブの林の中に育成します。中には内陸に生えていることもありますが、そのほとんどは沿岸部に生えているので、海辺に遊びに行くときにはマンチニールに注意しましょう。 猛毒を持っていて非常に危険な樹ではありますが、沿岸部で育成することで天然の防風林になったり、根の力で砂を安定させて砂浜の浸食を防ぐのに役に立っています。

マンチニールの毒性

マンチニールの危険性を示す看板

Photograph by Scott Hughes

毒の成分

マンチニールは樹皮、葉、樹液、果実など全身猛毒の植物で、様々な有害成分が含まれていますが、その毒成分については完全には解明されておらず、今なおわかっていないことも多いです。
ホルボールの構造

アレルギー性物質ホルボールの構造

その中でわかっている成分の一つに「ホルボール」があります。ホルボールはアレルギー性皮膚炎の原因になる毒性の強い成分ですが、これ以外にも毒性の強い様々な成分が含まれているため触れると様々な症状が現れてしまいます。 これだけ殺意の高い猛毒植物になった背景は現在も謎に包まれています。ホルボール以外にどのような成分が含まれているか見ていきましょう。
樹に含まれる成分
  • 12-デオキシ-5-ヒドロキシホルボール-6-ガンマ-7-アルファ-オキサイド (12-deoxy-5-hydroxyphorbol-6-gamma-7-alpha-oxide)
  • ヒッポマニン (hippomanin)
  • マンシネリン (mancinellin)
  • サポゲニン (Sapogenin)
  • ホルボール
  • その他肌刺激物質
葉に含まれる成分
  • フロールアセトフェノン-2,4-ジメチルエーテル (phloracetophenone-2,4-dimethylether)
  • その他は樹と同じ
果実に含まれる成分
  • フィゾスチグミン
  • その他は樹と同じ

毒に触れた時の症状

マンチニールに触れてしまった人の腕

Photograph by Par Grook Da Oger

マンチニールに素手で触るのも危険ですが、さらに危険なのが乳白色の樹液や果実の汁です。これに触れてしまうとホルボールを始めとした肌を刺激する成分がたちまち作用し水ぶくれや炎症を起こし激しい痛みに襲われます。
さらに、この成分が少しでも目に入ってしまうと結膜炎や角膜炎を起こしてしまい、大量に目に入ってしまった場合には失明する危険性もあります。 目に入る心配なんてないよ、と思う人もいるかもしれませんが、実はマンチニールを燃やしてしまうと毒成分が煙と一緒に出ていくので煙が目に入ったり吸い込んでしまう危険性があります。そのため、マンチニールが生えている地域では気軽に焚き火を楽しむこともできません。 さらに恐ろしいことに、マンチニールの毒は水に溶けいやすい性質があり、雨にも溶けだすので、木や葉っぱを通過した雨は猛毒水に変わります。突然の大雨に雨宿りしてしまい、全身に腫れや水ぶくれなどの症状が現れて、完治までに5日間もかかってしまった事例もあります。マンチニールの下で雨宿りするのは絶対にやめましょう。

食べてしまった時の症状

現地に人には非常に恐れられており、マンチニールの木の近くには危険さを示す看板が設置されていたり、赤いシールや✕印で注意喚起されたりしていますが、何も知らない人がおいしそうな匂いの果実に引き寄せられて食べてしまうという事故が発生しています。

今回は実際に食べてしまった人の体験談をもとに症状を紹介していきます。
体験談
砂浜に落ちてる果実をマンチニールとは知らずに食べてしまった直後、最初は甘みが広がって美味しい!と思ったようですが、すぐに胡椒のような違和感を覚え、徐々に口の中がピリピリとしてきたと言います。 次第にピリピリしか感覚から痛み、そして焼き付けられて引き裂かれるような激痛に変わるとともに、のどを締め付けられるような苦しさも出てきました。 この痛みはすぐに止むことはなく痛みを増しながら口内から体の中まで侵攻していき、数時間後には本当に耐えられない痛みに変わっていきます。 結局痛みが和らぎ始めたのはおよそ8時間後で、この方は何とか一命をとりとめました。
実際に何が起こっていたかというと、出血、ショック、バクテリアによる重複感染を伴う胃腸炎を引き起こします。これにより、焼かれたり切り裂かれるような、まさに拷問のような痛みが現れます。 そして腫れによって気道が圧迫されることで喉が締め付けられるような感覚を引き起こし、固形物は一切喉を通らない状態に陥ります。 一口かじっただけでもこの症状なので一気に多量口にしてしまうと最悪の結果に至っていた可能性もあります。

致死量

様々な毒が入っていることや、含まれている成分について詳しくはわかっていないことも多いため具体的な情報はありませんが、果実を1個食べただけでも命に関わるほど危険だと考えられます。

マンチニールの毒が全く効かない生物

海沿いの岩場に居座るツナギトゲオイグアナ

マンチニールの毒が効かないツナギトゲオイグアナ

こんなに毒性の強い植物ですが、マンチニールの毒が全く効かない生き物がいます。体長1mにもなるツナギトゲオイグアナです。

雑食性ですが、植物が大好物のこのイグアナは、なんとマンチニールの猛毒果実をパクパク食べます。さらに全身猛毒のマンチニールの樹の上を住居として使うこともできます。 人間だけでなく多くの動物たちにとってマンチニールは猛毒なので、非常に優秀な天然の要塞となります。

症状が出てしまったら?

もし触れてしまった場合はすぐに現地のヒトに相談し対処してもらうとともに病院に行きましょう。症状が酷くない場合はお酢をかけるなどで症状が緩和したこともあるようです。食べてしまったり症状が酷い場合はすぐに病院に向かいましょう。対処療法により、症状の緩和は症状が悪化した時の緊急対応ができます。

対処療法は受けられるようですが、短時間で症状が改善するような治療受けられるわけではないため、症状が和らぐまで頑張って耐えるしかありません。それでも痛みを和らげたり気道を確保したりできるので病院にすぐに駆け込むようにしましょう。

マンチニールの利用方法

マンチニールの葉と実

マンチニールは危険な植物として紹介されることが多いですが、一方で昔からいろいろなことに利用されていました。

武器として使う

夕方に弓を打つ人のシルエット

矢の先に毒を塗り狩猟に利用していた

危険すぎるマンチニールですが、今も昔も有効活用する人々は現れます。カリブ海沿岸地域に住んでいた先住民は、矢の先にマンチニールの毒を塗って殺傷力を高めていたと伝えられています。

その昔は狩猟のための武器として、時代が進むにつれて暗殺や拷問などの武器、道具として使われてきました。(マンチニールの木に縛り付けるなどの拷問にも使われていたようです・・・)

現代の発達した医療があれば適切な対処をすることで死に至るリスクは低いと言われていますが、その昔はこの毒を行けると致命傷になったと考えられています。

フロリダを発見したスペインの探検家であるファン・ポンセ・デ・レオンンは、1521年ネイディブアメリカンのカルーサ族の襲撃を受けた際に、マンチニールの毒矢で負傷しその影響で航海中に死亡したと伝えられています。

建築材料

木造建築の家の写真

乾燥したマンチニールは建築材料になる

マンチニールを完全に乾燥させることで猛毒が無毒化するということが大昔から知られています。
マンチニールは非常に頑丈なため建築材料として非常に優秀なため、昔から建築材料として活用されていました。
非常に頑丈な家をつくれるようで現在も有効活用されているようです。猛毒を持っていたとしてもうまく活用することで様々なことに有効活用されています。

まとめ

マンチニールは北アメリカ南部、南アメリカ北部と一部アフリカの西海岸沿いに分布する猛毒樹木で、ギネス世界記録に「最も危険な樹木」と認定されています。
全身に猛毒を持っていて、もし樹液や果汁、毒が溶けだした水に触れてしまったり、燃やした時の煙に触れたりすると、地獄のような痛みに襲われてしまい、最悪の場合には死に至ります。
毒の成分は今なおすべて解明されているわけではありませんので対処療法が基本となるので絶対に近づいてはいけません。
 

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